「ハッ、」
僕と琹は目を覚ました。
「......」
琹は何も発せず、ただ意識を失ったままの格好で、俯いていた。
「なあ、お前。」
僕はボソリと呟く。
自然と出た声は、やけに落ち着いていた。
「お前は、これからどうしたい?」
「...君は、どうしたい、の?」
小刻みに震えながら琹が出した声は、弱々しいものだった。
「虐められていた僕に、どん底に居た僕に、声を掛けてくれた優しさが嘘だと知って、とても君が憎かった。でも、このままじゃ駄目だって、わかってる。だから僕は、もう過去に囚われずに、心を浄化して死ぬんだ。」
これが僕の決めたこと。
探しても探しても見つけられなかった生きる意味。
何故見つからないのか。
それは、僕がそういう運命だからなんだと思う。
運命というものは全て、神様が決めたこと。
神様に逆らうことは不可能だ。
だから僕は死ぬ。
ずっと心に決めていたことだった。
すると、琹が口を開いた。
「そっ、か。私は、っ...君に死んで欲しくない、のに...」
琹は目に涙を溜めていた。
此奴は僕に死んで欲しかったはず。
何を今更。
「死んで欲しくてあの時僕を刺したんだろう、??怒りを買わせて、殺されたいのか??」
僕は左腕を振り上げた。
琹の顔面に拳が触れようとしたその瞬間。
琹は叫んだ。
「私は君に生きて欲しかった!!!」
またこれか。
僕は顔面を殴りつけた。
「ぜ、んぶ...誤解、だよ」
痛みに耐えて必死に口を動かす琹。
もっと痛がれよ。
僕は何度も殴った。
「引越しは、、嘘だった、の...」
ふと僕は手を止めた。
意識的ではなく、無意識に。
「病気でっ、、入院しないといけなくて、いつ死ぬかも、分からなくてっ...。ただただ、生きてる陵ちゃんが、羨ましかった、」
溢れ出た涙でいっぱいの瞳を何度も手で拭い、途切れ途切れに話す琹の姿は、すごく小さく見えた。
僕は暫く言葉が出なかった。
体が動かなかった。
そして僕は、泣き崩れた。
何を僕は勘違いしていたんだろう。
琹の病気に、気付けなくて。
琹の話も聞かないで、一人で怒って怒りをぶつけて。
ずっと傍に居たはずなのに。
一番近くに居たはずなのに。
僕は自分が嫌になった。
自分の体をひたすら殴った。
血が出た。
痛みは、感じなかった。
僕はテーブルの上から食事用のナイフを取って、自分に刺した、はずだった。
でも、気付けばナイフは琹に刺さっていた。
目の前には、ナイフが刺さり、病気の発作で苦しむ琹の姿があった。
顔は、血だらけだった。
病院に連れて行かないと。
そう分かっているはずなのに、僕の体は動かなかった。
何をしてる、早く病院に行けよ、
僕は震えて動かない自分の足を、ただひたすらに、殴っていた。