ーチリンチリン。
ドアが開き、鈴の揺れた音が響き渡った。
「おかえりなさいませ!ご主人様!」
メイドのような台詞を言い、無邪気に燥ぐ琹。
さっきまで病院に居たとは思えないくらい元気で、家を出ていったヤツに対しての態度とは思えないくらい明るかった。
悪く取れば、無理して笑っている感じ。
「あんまり無理してテンション上げなくていいよ」
僕がそう言い中に入ろうとすると、琹は『これが普通だよ!』だと言い張った。
本人が通常だと思うなら気にすることもないか。
僕はちょっと気になるけどな。
そんなことを考えていたせいで、僕は琹の声を聞いていなかった。
「ちょっとっ!ボーッとしないで私についてきてー!」
怒られてついていった先は、ずっと使っていない空き部屋だそうだった。
「ここは自由に使って!落ち着いたら、リビングに来て!夜ご飯にしよう!」
バタン、と勢い良く閉じたドアの隙間から、ホコリが飛び散った。
「う、...」
僕は思わずホコリを吸い込み、咳き込んだ。
苦しい。
この刺激で本能が目覚めたのか何なのか、僕は苦しいだけのホコリを故意に吸った。
それも、何度も何度も。
「ゴホッゴホッ、」
咳は止まらず、咳と共に胃液が出そうな気までした。
吐きそうになったそのとき、僕はハッと我に帰った。
「...何してんだろう」
僕は一人呟いた。
咳き込みすぎて涙目になった目。
込み上げる吐き気。
馬鹿みたいだ。
多分僕は死ねるとでも思ったんだろう。
咳き込んで死ぬわけがないのに。
それくらい僕はおかしくなっているんだな、と僕は実感した。
自殺をしようとしたとき、いつも同じような感覚に侵される。
なんだか、自分じゃないような自分になるのだ。
「ハァ、...」
大きな溜息を一つつき、下を向いたとき。
僕は壁で強く頭を打った。
「思い出した、」
頭を打ったせいか、次々と忘れていたことを思い出す。
「あいつは...僕を...!!」
込み上げて来る怒りを抑えようと、グッと手を握り締めた。
「...こういうことだったのか」
僕は勢い良くドアを閉め、リビングへ足を向けた。