病院を出てさすがに飲みに行くという雰囲気でもなくなり、近くのファミレスで食事だけして帰った。

「気をつけて行ってこいよ、生田」

「なんかあったらすぐ連絡せろよ」

課長と小野さんから励まされ、いよいよ福岡に発つ時が迫ってきたんだなと実感した。

そして明日は、私にとって重要な日になるはず。

嫌なことからは逃げの姿勢だった今までの私を捨てる覚悟を決めたんだから。

友也に会いに行く。

だけど何をどう話せばいいのか、まだ何にも考えていない。

呆れるほどにノープランだ。

メールでもした方がいい?

いやでも、私としては予告なしで突撃したい。

その方が友也に余計な先入観を与えず、私の想いをストレートに伝えられる気がするから。

すぐ近く、隣に住んでいるというのに。

今の私たちは距離が離れてしまっている。

この距離を縮めることはできるのだろうか?

それとも、もう叶わないのか?

決戦の時は、刻一刻と迫りつつあった。




翌日。

『明日美、明日美ー』

ん…………。

誰かが私を読んでいるような気がするけど。

『明日美…………聞こえんと?』

なんか聞こえたような気がしたけど。

空耳?

ガラッ!

部屋のドアが開けられると同時に響いたお母さんの怒鳴り声で目が覚めた。

「いつまで寝とっとね明日美!あんたねー、明日から福岡で独り暮らしっていう自覚はあっとね!?こがんして起こしてやらるっとも明日までばい!いい加減起きんねっ」

「げっ!ちょっとお母さん今何時!?」

こんな風に叩き起こされるってことは……。

「もうすぐお昼けど。休みやけんちょっとくらい寝坊してもよかろうけど、明日の準備は?忙しか忙しかって言うていっちょん何もしとらんごたるけど。お母さんも手伝おうか?」

「よかけん!私もいつまでも甘えてばかりじゃおられんけん。起こしてくれてありがと!!じゃ私着替えるけんが、あっちいって」

まだ何か言い足りなそうなお母さんを早々に部屋から追い出した。

ヤバい、完璧に寝過ごした。