「みんな生ビールでよかか?」

課長が当然のようにビールを注文しようとしてるけど、どうしよう。

「生田どうかしたか?」

小野さんが黙って返事をしない私を変に思ったのか、声をかけてくれた。

ここは正直に言ってもいいのかな……。

「あの、私今日はお酒はちょっと」

『飲みたくないんです!』と言おうとしたその時、突然課長の携帯が鳴り出した。

課長が電話に出てる隙に小野さんがこそっと私に言った。

「今日は飲まんつもりか。もしかして瀬名のことば気にしとっとか?確かにアイツのことば考えれば、酒飲むとば控えとこうと思うお前の気持ちも分らんでもなかけど」

「いや、別にそういうつもりでは……」

瀬名くんには悪いけど、今日お酒を飲みたくないのと瀬名くんは関係ない。

でもこの場ではそういうことにしておいた方がいいのかな。

「ほ、本当ですか!分かりましたすぐに行きます!」

課長が興奮したような声を出して電話を切った。

「瀬名が……瀬名の意識が、戻ったぞ!」

瀬名くん!やっと!!

「悪かけど俺は今から瀬名の病院に向かう。お前らはどうする?」

小野さんと顔を見合わせて頷き合った。

「もちろん一緒に行きます!」

注文する前で良かったのかもしれない。

課長がお店の大将に「近いうちにまた来ます」とお詫びをし、バタバタと外に出てタクシーに乗り込んだ。

瀬名くんが事故に遭った日から二週間以上経過してる。

いつまで意識が戻らないのかと心配だった私たちにとってなにより嬉しい知らせが舞い込んできた。

瀬名くんの状態はどんな感じなんだろう。

意識が戻ったとしても、事故のことを思い出したりして苦しんでいないだろうか。

痛みは?どこか苦しかったりしないだろうか。

精神的に不安定になってたりパニックを起こしたりしてないだろうか?

やだやだ、せっかく嬉しい知らせなのに。

どうしてこうもネガティブ思考なんだろう。

「小野さん、瀬名くん大丈夫ですよね」

「ああ大丈夫さ。意識の戻ったとならあとは良くなるだけやろ。話が出来ればよかけどな」