女王様が亡くなったのは、陛下が幼い頃だと
聞いている。私も幼かったため、その辺の記憶が
曖昧だった。

「母か……俺の母は、優しくて
何でも器用に、こなす人だった。
勉強などで忙しかった俺に気分転換と自分の事は、
自分で出来るようにといろんな事を教えてくれた。
このパンもケーキも母から教わったもんだ!」

陛下から意外な真実を知る。
何でも器用に、こなすのは母親の影響だったんだ!?
私は、驚きながらも少し羨ましいと思った。

私には、母親がいない。
いや、それどころか……父親すら知らない。
孤児院の院長先生の話だと私は、生後何ヵ月の頃に
施設のところに置き去りになっていたらしい。
名前は、院長先生が付けてくれた。

苗字が無いのは、孤児で分からないから。
分かるのは、置き去りの時に一緒に入っていた
赤い石のペンダントのみ。
ペンダントには、変わった模様の字で彫られていた。

私は、捨てられたのだろう。
出生の事も両親の事も何も分からない。
私は……本当は、誰なのだろう。
悲しくなり、しゅんと思い悩んでいると
陛下は、私をギュッと抱き締めてくれた。
ドキッと心臓が高鳴ってしまった。

「そんな悲しい顔をするな。アイリス。
お前は、お前だ。他の誰でもない」

陛下は、そう言うと私にキスをしてくれた。
落ち込んでいると私に気づいて慰めてくれたのだろう。
それが私には、嬉しかった。
他の誰でもない……私は、私か。
しかし、その意味を改めて考えさせられるとは、
この時は、思わなかった。

それから数日後。
何も異変がなかったはずの我々にある
パーティーの行われようとしていた。

「ルチア様。アルフェット大国から
出席の確認が取れました」

「そうか。久しぶりにマリアと
ジュリアに会えるな。楽しみだ」

もうすぐルチア様の誕生日パーティーが
行われようとしていた。
招待客だけではなく国外からもたくさんの王族が
出席することになるから盛大に行われるらしい。

マリア様は、国王陛下の妹君で
隣にあるアルフェット大国に嫁いで行った。
今は、娘のジュリア姫様がいらっしゃる。

「アイリス。国外の王族が来るとなると
警備をもっと強化しなくてはならないが
今は、忍びが潜んでいるので
くれぐれも気を引き締めて下さい」

「は、はい」