──もっと良くできるのではないか。

明後日に行われる長谷川との打ち合わせを控え、紬花は自らが描いたデザイン画を眺めていた。

定時を過ぎたエトワールのオフィスには煌々とした明かりが灯り、静かな空間に紬花が身じろいだ際にたてた椅子の音だけが聞こえる。


(火曜はみんな帰るの早いよね)


エトワールの定休日は水曜日。

その為、火曜日は十九時に店が閉まるとショップスタッフだけでなく、オフィスのスタッフも皆そそくさと家路につくのだ。

独身チームは飲み会や趣味に、既婚者は家族との時間を大切にする為に。

二十一時八分現在、紬花はというと、本日の打ち合わせは三件とも滞りなく終わり、以前ならばすでに家に到着している頃だが、今は陽の世話をするという任務がある。


(御子柴さん、そろそろ終わるかな?)


陽のリムジンで一緒に帰宅する予定の紬花は、ミーティングルームの扉に視線をやった。

エトワールは海外にもドレスショップがいくつか展開しており、そのうちのひとつ、最近オープンしたニューヨーク店とのテレビ会議に陽は出席している。

時差が十三時間あるため、会議の開始は二十時からスタート、終了予定時刻は二十一時なのだが、どうやら長引いているようでまだミーティングルームから出てきていない。

来年ニューヨークで行われる、秋冬ブライダルコレクションに向けてのちょっとした打ち合わせとのことで、今回は社長の博人と副社長兼デザイナーの陽、ニューヨーク店のマネージャーといった少人数での会議となっている。