「ぁ………椋さんだ。おかえりなさい」
 「うん。ただいま。遅くなってごめんね」


 そう言うと、椋は少し眉を下げたまま、花霞の唇に小さいキスをした。
 その微かな彼の感触を感じただけでも、体がキュンッとしてしまう。


 「椋さん………」
 「うん………花霞ちゃん、泣いてた?」
 「………ぇ………」

 
 椋は花霞の目尻に触れて、心配そうにしている。先程感じた温かさは彼が触れたものなのだろう。
 彼に泣いているところを見られてしまった。けれど、理由を話してしまえば、彼に迷惑がかかる。寂しいと言ってしまえば心配する。花霞は、そう思って開きかけた口を閉ざした。
 
 すると、椋は「花霞ちゃん」と、優しく問い掛け、体を横にしている花霞の耳元にキスを落とした後、耳元で囁いた。


 「話して………それはきっと俺には嬉しいことだから。君の本当の気持ちが聞きたいんだ。花霞ちゃんの言葉でね」
 「…………ん…………」


 花霞はくすぐったさから、身を震え微かに声が漏れてしまう。それを見て、椋は嬉しそうに微笑んでいた。
 自分の気持ちは彼にお見通しなのだろう。それがわかり、彼には敵わないなと思った。
 花霞は、ソファで寝ていた体を起こしてから、ゆっくりと話し始めた。