藍と大河は、また不審死のご遺体を解剖する忙しい日々に戻った。

藍は大河の目の前でもう泣くことはなく、実家に帰る前のように解剖をする。しかし、二人きりの時はお互いのことを名前で呼ぶことは忘れなかった。

そして、藍が研究所に戻って数週間が経った頃。解剖が終わり、お昼休憩にしようと藍がかばんの中からお弁当を出そうとすると、スマホに電話がかかってきた。藍の元恋人の如月大輔(きさらぎだいすけ)刑事からだ。

「霧島さん、お茶どうぞ」

大河がグラスにお茶を入れ、藍に笑顔で渡す。藍は「ありがとう」と微笑んで受け取った。電話はまだ鳴っている。

藍はスマホを手に廊下へ出た。そして、通話ボタンを押して人気のない場所まで向かう。

「藍、今はお昼休憩か?」

「そうよ。あなたもでしょ?」

「まあ、こっちは事件があればあってないようなものだがな……」

「大変ね、刑事の仕事って」

「大変なのはどの仕事でも同じだろう。俺だけじゃない。お前だって大変だ」