「は~~~~」

 それからどでかいため息をつきながら、ミヤコさんは受け取ったベシャメルまみれの指輪を見つめます。

(……あーあ、せっかくの指輪こんなになっちゃって。プラチナじゃん? しかもイニシャルまで丁寧に彫られてるのに……。結婚雑誌のカタログで見たことあるわ。あーあ、ムード台無し……トホホって感じだよ。大事な大事なプロポーズが、こんな異物混入という体を成すとは……)

「ふ……ふはははは」

 ミヤコさんは、いよいよ脱力して笑います。

「ミヤコさん笑い方が魔王」

「やかましい」

「あのね、ミヤコさん」

「あい?」

 きぃくんが、キリッと改まって膝を揃えます。

「今度帰省するでしょ?」

「ああ、今度の連休にね」

「その時、僕もついてっていいかな? ご両親にきっちりとご挨拶がしたいんだ」

「…………」

「僕を、幸せにしてくださいって」

「あん?」

「あ、いや、もちろんミヤコさんの幸せが最優先なんだけどぉ~、それはつまり僕もろとも幸せになるってことでぇ~。いっしょにね? うん、いっしょに幸せになるって意味では僕が幸せになりたい宣言でも──」

「………

 ………

 ………おっけー」

「え? ホントに?」

「うん」

 ぱぁぁと喜色に満ちる、きぃくんの顔。

 ──いたずら、大成功でいいよもう。あんたとなら、何があっても笑って乗り越えられる気がするから──。

 ミヤコさんは、そう思いました。

「きぃくん」

「ん?」

「コレ、一回洗ってきていいかな? ちゃんとつけたい」

「うん!」

「きぃくん」

「ん?」

「こんなことして……。一生覚えてなさいよ。私は一生忘れないからね」

「ひえ」

「それと、きぃくん」

「はい!」

「こんないたずら、絶対に他の子にしちゃダメよ」

「……うん!」

 プロポーズと牡蠣グラタンは、この後おいしくいただきました。


【end】