「広貴すごいね。顔色一つ変わらなかった」


歩いて行くあたしの背中から杏美が囁きかけて来る。


「本当だね。嘘をつくのが上手だから、中学時代はよく怒られてたけどね」


そう返事をして苦笑いを浮かべる。


「そうだよ?」


昔は意味のない嘘ばかりついて、最後には誰も信用してくれなくなったことがある。


まるで童話の中に出てくる少年みたいだったんだ。


それでこりたのか、広貴はいつの間にか嘘をつかなくなっていた。


「仏様のお名前は?」


本殿から分厚いノートを取り出して、住職が言った。


「宝来亜香里です」


広貴の言葉を聞いてから、ノートを開く。


そこには仏様の名前がズラリと並んでいた。


一応あいうえお順になっているみたいだけれど、この中から1人を探し出すのは簡単じゃなさそうだ。