バランスを崩し近くの壁にぶつかる金城
あたしは解放された腕を押さえる
右は大丈夫やけど、左の肩の関節がちょっとおかしい
解放されたにもかかわらず、左肩は前にしようとすると痛み、何かひっかかるような感覚
痛いなぁ、ほんま!!
「…あんた、そうか。泉の女ってだけじゃなく、烈火に入った女ってことか」
どうりで冷静な訳だ
そう呟く
えらい早々にばれてしもたけど、関係ない。
本気でやらな、やられる
「金城さん…この子、泉の彼女じゃないって言ってますし…それにこんな人質みたいなことしなくても」
「黙れよ悠馬。彼女じゃなくても泉が初めてそばに置いた女だ。それだけで十分だろ」
……右手で左肩を掴む
関節がやっぱりおかしい
「どうした?左は外れたか?」
「アホやな。あたし利き手が右やから、右やっとくべきやったな」
強がってみたものの、片手の力で外れた関節が戻るわけではない
悠馬は完璧に落ち込んだように下を向く
部屋の入り口は1つ
その前に立つ金城
結構ヤバめ?
さっき悠馬の携帯で時間を見たが、いまは9時くらい
あたしが拉致られてからそんなに経ってへん
泉達があたしをどれくらいで見つけれるかは分からへんけど、昼までには来てくれるはず。
ただこの状況で何時間も耐えれる気がせん
「……どうやったら、泉は傷つくと思う?」
「はぁ?」
「答えろよ」
一歩一歩近づいてくる金城と、同じように一歩一歩下がり距離を取る
「俺だけ、苦しむのはおかしいと思うんだけど?だから泉にも同じように苦しんで欲しくてさ」
「……別に泉は、あんたみたいに心も体も弱くないから、薬とかは手出さへんと思うけどな」
「…悠馬、話したのか?」
ギロリと睨む金城に言う
「見たらわかるねん。目逝ってるし、頭もおかしいし…」
あたしがそう言うと悠馬から目線をこちらに向ける
変な話、悠馬に矛先向いてるときに逃げたかったんやけど……
震えて涙出てる悠馬を放って置けなかった
「薬はいいぞ?全て忘れさせてくれる」
「……弱いやつが手出すのが薬やけどな。よかったなぁ忘れられて」
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まさかだった
金城さんがこんなに早く現れるなんて
しかも最悪のタイミング
椅子で殴ってきたものの、なんだか放って置けない。そう言い話を聞いてくれた女
俺は烈火に金城さんを止めて欲しいと言った
そんな義理もないし、決めるのは泉だけど、杏と名乗った烈火の女は、ちゃんと伝えると約束してくれた
金城さんはこうやって女を拉致したりするのを嫌っていた
そのはずなのに…薬に手を出しておかしくなってしまった
友達なのに、幼馴染なのに止められなかった
ずっと兄のように慕ってた人なのに…
部屋に入ってきた金城さんは、躊躇うことなく女を突き飛ばし、両腕を後ろで拘束した
女の腕は、後ろに無理矢理引っ張られて、見てるこっちも肩が痛くなった
でも1つも悲鳴もあげない
歯を食いしばり唇を噛み耐える姿をみて、これはしてはいけない事だと思った
こんなこと金城さんにさせたくない
少し力が緩んだのか、女は後ろ足で金城さんを蹴り飛ばし前にコロリと転がった
さすがの金城さんも驚いた様子
こんな状況で、こんなに強く冷静な女の子がいるなんて
どんどん窓際に追い詰められる女は、右手で左肩を押さえて険しい顔をしている
脱臼したか?
左腕はプランとなり、必死に女は肩を押さえていた
そんな様子をみても、顔色ひとつ変えない
女は薬のことを言うと、俺が金城さんに睨まれた。
威圧感で体が震えて涙が出る
あの優しかった金城さんはどこへ…
もうどうにでもなれと、諦めそうになったとき、女は金城さんに向かって暴言を吐き出した
頭がおかしいなどと言う
怖くて動けないのに、彼女は違うのか?俺から標的を自分に変えるかのように、次々煽る
案の定金城さんは、俺なんて居ないもののように目をそらし、女を睨む
そして薬はいいぞ。そう言った
それに対して、薬は弱いものがする。そうはっきり女は言った
次に金城さんは女の胸ぐらに手を伸ばす
が、それをヒョイとかわす
「まぁまぁ落ち着いて?あんたの目的は泉を苦しめたいってことでいいの?」
女の問いかけに金城さんは笑った。そうだ。その通りだと
「まぁあたしを今痛めつけてもええけど、目の前でする方が泉は嫌がる思うで?」
…自分でなんて言う提案してるんだと思ったけど、女の表情は少し焦りの表情
とりあえずこの場でも凌ぎたいのだろう
俺もできたら今この場では…この子に手を出さないで欲しい。
「…それもそうだな?お前頭いいな」
金城さんはそう笑った
女は俺に聞こえるか聞こえないかくらいの小さな声でつぶやいた
「アホでよかった」と
ひやひやさせる。聞こえたらどうすんだよ
本当にいつもと様子の違う金城さんは、完璧に薬がキマっていた
フラッと近くの椅子に腰をかける
女はその様子をみて少し安堵のため息
俺も体の緊張が少し解ける
少しこれで落ち着くのか?でもこの後どうする?なんて考えてた
俺はきっと、この女のことを見くびっていた
いや、すごいとは思った
根性もあって度胸もあって…喧嘩も強い
でも、それ以上にこの女は、あらゆる修羅場をくぐってきたんだろうと痛感させられた
金城さんが欠伸をしたその瞬間、女は突然窓際の壁に突進した
ゴキっと鈍い音がする
まさかとは思ったけど、そのまさか
自分の力では外れた肩を戻せないとわかり、壁にぶつけて肩をはめたのだ
とても鈍い音とともに、女の「いったー!」と言う声がした
あまりの光景に口は開いたまま
金城さんも少し目を大きく開く
その時、冷静に、全てを見ていたのは女ただ1人だった
「じゃ、携帯借りてくで」
左肩をくるりと一回まわし女は俺と目を合わせた
どう言うことだ?そう言う前に、女は窓際の机の上に飛び乗り、体を小さく丸めて
ガラスを突き破り窓の外へ落ちていく
「え?」
ここ、3階だぞ?!
パッと窓の外を見る
ありえないだろ。
逃げるためとはいえ…行動がやばすぎる
窓の外には、木にぶらさがる女
自分の来ていた制服のブレザーを両手に持ち、輪っかにして木に引っ掛けていた
俺はアクション映画でも見てるのか?そんな気持ちに陥ったが、ものすごい音がなり、現実に引き戻される
金城さんが近くの机を窓の外へ放り投げた
女がいる場所へ
それを予想してたかのように、サッとその場を離れて学校の敷地を走り去った
女が肩をぶつけて脱臼を直して、走り去るまで、わずか10秒ほど
「くっそ!!!あの女ゆるさねぇ!絶対殺してやる」
金城さんはブチ切れ、吠えた
携帯を取り出し電話をしだす金城さんは、怒りで声が震えていた
そして気づいた
学校がざわついている
いつからだ?今女の姿を見られたのか?そう思ったが違った
「何?烈火が乗り込んできただと?」
金城さんが電話に向かいそう言った
早くても昼はすぎるだろうと思っていた。
それにここは、東野矢だ。今は9時半くらいで1時間目の途中
校門に来たのか???
そう思ったけど違っていた
突然すごい音を立てて部屋の扉が開く
パッと扉の方を見ると、そこには…
「杏はどこだ、殺すぞ」
見たこともないほど怒っている泉と、その幹部たちが居た
金城さんが声を発そうとした、その瞬間、それを待たずに拳が飛ぶ
金城さんの身体は宙に舞い、ドサリと床へ落ちる
強すぎる
そう思った
幹部のメンバーは、入り口で無言でその様子を見ていた。手を出すわけでもなく、ただじっと…総長である泉を見ていた
「もう一度聞く。杏はどこだ?」
次答えないと殺すぞ。そう泉は言ったが、さっきの質問の後、金城さんの言葉を聞かずに殴り飛ばして、答えささなかったのはあんただろ。そう思ったが言えなかった
倒れた金城さんの前に立つ
「…お前の大事な女か?」
「質問に答えろよ」
「……片腕折っちゃったかもな」
ピクリと泉は反応して、少し目を閉じた
そして低い声で言う
「どこにいる」
その問いには金城さんは答えない
でもやばい。
泉は躊躇いなく金城さんの首元に手をやる
このままじゃやばい。ほんとにやばい!!!
そう思った時、口を開いていた
「ほんと、ついさっき!!この窓から飛び降りた」
言うなよ。そんな目で睨まれたが、言わなきゃやばいのは、金城さんだ。
見たらわかる。泉は本気だ
片手で金城さんの首をもち、ぎゅっと力を入れていた
少しの沈黙の後に、パッと泉は手を離した
ゴホゴホとむせる金城さんのそばへ駆け寄る
顔をしかめて酸素を一生懸命吸う金城さん。
そして次に、泉の問いかけは俺に来た
「お前も見てたか?」
コクコクと首を振る
割れた窓ガラスをじーっと見つめて、口を開いた
「…朔、響。ここ任せていいか?新と慧は、俺と一緒に杏を探してくれ」
「あぁ。ぜってぇ紅蓮より先に見つけろよ」
「逃げたり変な動きしたら…お前の判断で、やっていいから」
泉は幹部の朔にそう告げて部屋を出ようとする
俺は自分のすべきことが分からなくなっていた。金城さんを助けたい。でも金城さんは、この人達を怒らせてしまった
でも
あの子は…無事でいてほしい
あんな無茶をさせて、痛い思いをさせてから言うのもなんだけど…
「あ、あの!」
情けないが声が震える。だって金城さんより怖いから
無言でちらりとこちらを見る
さっさとしろよ。そう言いたげな目
「杏って子…俺の携帯持ってる。から…電話したら出るかも」