「おっと、だれが動き回っていいって言った?」


愛菜のことしか目に入っていなかったせいで、俺は別の男たちに羽交い締めにされた。

それを振り払おうとしたがかなわず、俺は叫ぶ。


「くそっ、離せよ!」


そうやって犯人ともみ合っている間に、愛菜は連れていかれてしまった。



ランチルームに残された生徒たちは、愛菜の取引に応じた犯人たちによって学園の外に出られることになった。

俺が取り乱したせいだ。

あいつが奪われると思っただけで、冷静でなんていられなかった。

無力だった自分自身に、どうしようもなく怒りがわく。


「おい、矢神」


犯人に先導されながら、列になって昇降口に向かっていると学が小声で話しかけてきた。


「森泉のナイトなんだろ、これからどうするつもりだ」

「俺は校内に残る。あいつ、天然かと思いきや意外と行動力あるからな。そばで見張ってねぇと無茶すんだろ」

「違いないな。なら、俺たちにまかせろ。その機会を作ってやる。花江」


学は萌をちらりと見る。

その視線を受けた萌はツインテールを揺らしながら小首を傾げた。

「うん、なにかな?」

「腹痛で苦しめ」


突拍子もない命令に、萌は少しも反論することなく敬礼する。


「了解しました、閣下! あいたたたたっ」


さっそくお腹を押さえてしゃがみ込む萌に、犯人たちの意識が向いた。

そのわざとらしい演技に、学は冷ややかな顔をする。


「とんだ大根役者だな。まあいい、今のうちに離れろ」


学が俺にそう耳打ちする。

俺は小さくうなずくと萌と学が作ってくれた隙を利用して、犯人の目をかいくぐり、愛菜のもとへ走る。

愛菜、どこにいるんだよ。

早く駆けつけなければと思うほど、足取りは早くなる。

考えろ、あいつの居場所を……。

俺は焦りながらも、思考を働かせる。

人質を確保しても、いつ警察が乗り込んでくるかわからない状況で学園内をうろうろ歩き回ったりはしねぇだろ。

なら、犯人たちはこの学園の中でも最初に侵入に成功した場所に行くんじゃねぇか?


「つーことは、放送室か!」


答えを導き出した俺は階段を駆け上がって、放送室がある階にやってくる。

すると案の定、これからどう逃げ出すか話し合っている犯人たちの声が聞こえてきた。

俺は放送室前の廊下の壁に背をつけると、こっそり中の状況を確認する。

どうやって、あいつを助ける?

はやる気持ちを深呼吸で落ち着けて、俺が策を練っていると……。