「お前の体操服、背中が切られてる」

「え……っ、着替えたときは切れてなんてなかったよ?」

「だろうな。さすがのお前でも、着たときにこれだけ体操服が切れてたら気づくだろ」


さすがのって……。
私、どれだけ鈍いと思われてるの!?
それにしても、どうしよう。
これじゃあ、体育の授業は出られないよ。


そう思っていると、開いた背中が見えないように後ろに立ってくれた剣ちゃんが男の体育の先生に声をかける。


「俺ら、体調が悪いんで保健室行きます」

「ふたりで行くは必要ないだろう」


先生は私たちがサボると思ったのか、怪しむように見た。

それに剣ちゃんの額には、青筋が立つ。


「律儀に許可をとった俺がバカだったな。おら、行くぞ」

「こらっ、待ちなさい!」


呼び止める先生を総無視して、剣ちゃんは私を体育館から連れ出してくれた。


「更衣室で制服に着替えろ。どうせもう、体育も終わる時間だしな」

「う、うん。ありがとう剣ちゃん」


私の後ろを歩く剣ちゃんにお礼を言うのと同時に、女子更衣室の前に到着した。


「外で待ってるって言いたいところだけどよ。ロッカーにお前を狙うやつが隠れてる可能性もなくはないよな」

「ロッカーのサイズも人が入れそうなくらい大きいもんね。あの……剣ちゃん、私が着替え終わるまで中にいてくれないかな」


おずおずとお願いすると、剣ちゃんは〝心底嫌だ〟という顔をした。

けれど、状況が状況だけに深いため息のあと、渋々うなずいてくれる。


「こんなところ誰かに見つかったら、俺のほうが犯罪者になるな」


更衣室に入った剣ちゃんは、私に背を向けながら怠そうにつぶやく。


「ごめんね、すぐに着替えるから」


せっせと体操服を脱ぐと、うっすら赤い染みがついているのに気づいた私は思わず「あ!」と声を出してしまう。