「ひいぃっ」


男の子の悲鳴が耳に届く。

目の前には私と男の子の間を割るように、竹刀が振り下ろされていた。

カタカタと震えながら恐る恐る視線を上げる男の子に合わせて、私も顔を上げる。

そこには通常運転で、とてつもない威圧感をまとっている剣ちゃんがいた。


「ああ、わりぃ。虫かと思ったわ」

「急に来て、なんなんだきみはっ」


竹刀を見て青ざめた男の子たちは、揃って後ろに飛びのく。


「俺はこいつのボディーガードだ。変な気起こしてみろ? ミンチにすんぞ」


すわった目で見られた男の子たちは、蜘蛛の子を散らすようにように逃げだした。

その場にふたりだけになると、剣ちゃんは竹刀を肩に担いで、私を咎めるような目で見る。


「お前、今朝の下駄箱の黒薔薇のこと忘れたのか? 安易に人に近づくんじゃねぇよ」

「覚えてるけど、あの人たちは同じ学園の人だし……」


そう言えば、剣ちゃんは私の頭に手刀を落とす。


「うっ」


頭を押さえると、剣ちゃんは軽くにらんできた。


「その学園の中で起こったことじゃねぇか」

「あ……」


たしかに、そうだった。

名だたる名家の御曹司やお嬢様が通うこの学園の警備は、警備室が設置されるほど頑丈だ。

それをかい潜るなんて、疑いたくないけど……。

やっぱり、学園の生徒なのかな。


「どこに犯人がいるか、誰が犯人かわからねぇんだぞ。警戒しすぎなくらいがちょうどいいんだよ」

「そう……だよね。わかった、ちゃんと気をつけるよ。じゃあ私、そろそろ出番だから行くね?」


憂鬱な気分を隠すように笑って、剣ちゃんに背を向けたとき――。


「待て」


剣ちゃんに腕を引っ張られて、私は後ろによろけた。


「わっ、とと……」


体勢を崩した私を剣ちゃんが後ろから抱き留める。

振り返ると、剣ちゃんは険しい顔をしていた。