「災難だったな」

「でも、剣ちゃんがいるから平気だよ。今も助けてくれたんだ」


私は数分前に起こった下駄箱事件のことも、ふたりに報告した。


「政治家の娘を守るボディーガード、ケンケンはさながら過保護なナイトだね!」


 さっそく萌ちゃんは、剣ちゃんをニックネームで呼ぶ。

ケンケン、可愛いかも。
私も呼んだらダメかな?

剣ちゃんをチラッと見れば、指で眉間を揉んでいた。


「ケンケン、過保護、ナイト……。どこからつっこめばいいのか、わかんねぇ」

萌ちゃんを前にして頭を抱えている剣ちゃん。

転入初日はクラスの子たちとぎくしゃくしてたけど、ふたりとは打ち解けてるみたいでよかった。

微笑ましい気持ちで見守っていると、私の視線に気づいた剣ちゃんに頬をつままれる。


「なに笑ってんだよ」

「ふふっ、秘密!」

「洗いざらい吐け」

「吐けって……。剣ちゃんに友だちができてよかったなって、思ったんだよ」

「……俺は小学生か」


剣ちゃんはジトリと睨んできた。


「あ! あとね、私もたまにケンケンって呼んでも……」

「却下」


即答されちゃった。
こんなやりとりが楽しい。

ぶっきらぼうな言い方なのに、心なしか剣ちゃんのまとう空気が柔らかくなってる気がする。

それがなんだかうれしくて、私はこらえきれずにふふっと笑った。



それは、体育の時間に起きた事件だった。

「見てみて、あの男の子って隣のクラスの矢神剣斗くんだよね?」

「運動神経いいのね。さっき、剣道部主将の男の子に勝っていたのを見たわ」


竹刀を手に防具を脱ぐ剣斗くんは、隣でバレーボールをしている女子たちの憧れの的になっていた。