テーブルの上の料理がぼんやりと私の前に浮かんでるように見える。

パスタから上がっていた湯気はいつの間にか消えて、この空間だけ時が止まっているようだ。

私の中の翔がリセットされていくかのように、彼の表情や言葉が走馬灯のように頭の中を流れては消えていく。

全てが消えてしまった時、どうしても今翔の声が聞きたいと思った。

そして、どうして抱きしめたりなんかしたのかその答えを知りたい衝動にかられる。

今聞かなかったら、きっとずっと聞けないような気がしていた。

だけど、聞いたところで何か変わる?

聞いたら私たちの関係がいいように運んでいく?

自問自答を続けるだけ無駄かもしれない。

答えは翔の心の中にあって、私が聞いたところで本当のことを言うかどうかなんてわからない。

だってさっきだって「震えていて寒そうだったから」なんてくだらない言い訳をしていたもの。

モヤモヤとドキドキが同居した胸の内をぐっと抑え込んで、冷めかけているコンソメスープを口に運んだ。

「おいしい」

ぬるくなっていたけれど、いつもの安いレストランでは到底味わえないような深みのある味であるのは間違いなかった。

せっかく翔が私のために用意してくれたルームサービス。

とにかくしっかり頂こう。

じゃないと、明日の朝会った時食事の感想も言えないわ。

余計なことを考えていたらすっかり食欲が失せていたけれど、この一口が私の食欲に再び火をつけ、テーブルの上の料理を口に運ぶ手が止まらなくなった。

今まで食べたどんな料理よりもおいしかったんだもの。

全て食べ終え、口をナフキンで拭うと、翔に【ありがとう。おやすみ】とだけ書いて送った。