リビング横の和室に寝ている祖母の様子を見るためにそっと襖を開ける。

薄暗くてよく見えなかったけど祖母の寝息が微かに聞こえていた。

ずっと二人で行こうと言ってた姫路城にようやく行ける。

私一人じゃとても叶わなかった。

ようやく念願の姫路城行きが実現するんだもの。

母の心配を引き受けて、無事に祖母を連れて帰ってこなくちゃね。

祖母の穏やかな寝息に耳を澄ましながら襖を締めた。

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「美南、タクシー来てるわよ」

玄関先から2階でコートを選んでいた私を呼ぶ母の声が聞こえる。

祖母は既にタクシーに乗り込んでいるようだ。

「はぁい!今行く!」

急いで厚手のグレーのコートをひっつかんで階段をかけ降りると、洗面所からひょっこり顔を出した父が歯を磨きながら「気を付けてな」と私に手を振っていた。

そんな父に手を振り、ショートブーツのジッパーは全開のまま外に出る。

荷物を抱えて後部座席に腰を下ろしたと同時にタクシーは動き出した。

隣に座っている祖母がにこにこしているのに対して、助手席の母が「遅い」と言わんばかりに私を軽くにらんでいる。

「ごめんって」

私はふてくされた顔で母に謝った。

「まぁまぁ、せっかくの旅行なのにお前もそんなことくらいで叱らなくていいだろう?」

祖母がそんな母を窘める。

「だって、タクシーが来る時間がわかってたのにも関わらずゆっくりしてるんだもの。旅行は私がいけないから美南頼みだってのに先が思いやられるわ」

深いため息をつきながら母はようやく前を向いてくれた。

祖母は私と目を合わせると首をすくめて笑う。