そんな自分に複雑な思いを抱きながらカフェブースに戻ると、弁当を片手に持った萌が首を傾げて心配そうに尋ねた。

「大丈夫ですか?」

「うん、大丈夫」

そう答えてまだ残っているおかずに箸をつけた時、外回りから戻ってきた美由紀が現れた。

大ぶりな革のバッグを肩に掛けなおすと、カフェブースに置かれたコーヒーマシンでコーヒーを淹れ私の正面に座る。

「お疲れ様ー!」

「美由紀、お疲れ様。今戻り?」

「そうだよ。早朝から遠出してきたの。あー、疲れた体にコーヒーが染み渡るぅ」

そう言いながら美由紀は目をつむり満足げな表情でコーヒーを飲んだ。

コーヒーカップをテーブルに置くと、前に座っている萌に顔を向ける。

「お疲れ様です」

萌は慌てて頭を下げ、美由紀も彼女に軽く頭を下げると私の顔を見た。

そうか、美由紀は萌のこと知らないわよね。

「あ、紹介するね。彼女は総務部で今年入った若葉萌さん」

「そうなんだ。総務部は何かと大変でしょう?私は神田美由紀。この美南と同期入社なの。よろしくね」

美由紀がかき上げた前髪からいい香りがした。

「また次の約束があるからそろそろ行かないと」

コーヒーを飲み干した美由紀は颯爽と立ち上がり、萌の顔に自分の顔を近づけ「美南に意地悪されないようにね」と小さく囁くと、笑いながら私に手を振ってブースから出ていった。

「もう、何が意地悪よねぇー?」

私は半笑いで萌に同意を促す。

萌も笑いながら頷き、コーヒーを口につけた。

「神田さんってきれいな方ですね。営業されてるんですか?」

「うんそう。昔からあの美貌でね。同期一の美女なんだ。営業で行った病院の医者からしょっちゅう口説かれてるみたい」

「わかります。モテそうだな」

そう、うらやましいくらい美人でモテるんだ。

天地がひっくり返ったって私が美由紀のようになれるはずもない。

「あそこまでの美人には憧れを通り越して自分とは違う世界に生きる何かだと思うようにしているんだ」

「ほんとですね」

私は萌と顔を見合わせて笑った。