「ちょっとごめん」

と萌に断りを入れ、スマホを持ったままカフェスペースを離れる。

廊下に出て小声で電話に出た。

「矢田です」

【竹部です。今お昼休みかな?少し話せる?】

「はい、大丈夫です」

【この間もらってたLINEの返事できなくてごめん。部長の引継ぎや難しい手術が続いていて病院泊りの日が続いていたんだ】

「いえ、お忙しいのはわかってますし。忙しい時にあんなLINE送ってすみません」

【いや嬉しかったよ。旅行の話、覚えててくれたんだって】

そりゃ、覚えてるよ。

っていうか、覚えてなかったら旅行の話が流れるってこともあったのかな。

【実は、あの時はまだ部長の後任なんて話はなかったから年末はなんとか休みが取れると思ってたんだけど、今状況が変わってしまってまだ予定が立たないんだ】

はぁ。やっぱりか。

【ごめん。だから元日だけは必ず開けとくから一緒に初詣にいかないか?その日は一日、何も入らないように調整しておく】

「ええ、わかりました。お正月あけときます」

【何か特別おいしいもの食べに行こう】

「はい」

そして、看護師だろうか、電話の向こうで竹部さんを呼ぶ声がして電話はあっけなく切れた。

想定内、ってとこかな。

まだドタキャンじゃなかっただけましか。

ってことは、松山城とはバッティングしなかったってことで、私の返事を待ってるであろう翔に早速LINEを送った。

送りながら、竹部さんとの旅行がなくなったっていうのに特にショックも受けていない自分に気づく。

むしろ、松山城に行けることに安心している自分がいることにも。