「矢田さんはよくランチは外に行かれるんですか?」

おしぼりで手を拭きながら萌が尋ねる。

「うん、ほぼほぼ外かな。お弁当はたまに母親の気が向いた時だけ」

「そうなんだぁ。矢田さんは実家暮らしなんですね、いいな」

萌が首をすくめてつぶらな目を細めた。

「まだ実家にお世話になってるんだよね、お恥ずかしながら。萌は一人暮らし?」

「はい。大学の時に上京してそのままなんです」

「ご実家はどちらなの?」

「……京都」

「ええ!京都って、まさかの関西人!?」

きちんと標準語をしゃべるし、控えめな性格の萌がまさかの関西出身だったなんて!

まぁこれは私個人の関西人のイメージだけれど。

「私も修学旅行と学生の時に観光で行ったっきりだけど、京都って素敵なところよね」

「ええ、とても落ち着く町です」

「京都で就職はしようとは思わなかったの?」

そう尋ねて、銅カップに入った冷たい水を飲んだ。

「もともと実家を出たくて上京したから、戻るに戻れなかったっていうか」

意外や意外。

一見そんな大胆なことしそうにもないタイプなのに。

人は見かけによらないってことだ。

「実家を出たいだなんて、何か問題でもあったの?っていうか、ちょっと私聞きすぎかしら?言いたくなかったら無理しなくていいからね」

思わず前のめりになってる自分を一旦改める。

昔からすぐに気になったら聞いちゃう癖があるんだよね。

そんな私を見て、萌はくすっとうつむいて笑った。

「矢田さんと話してたら、なんだか元気になってきます。それに、なんでも話したくなっちゃう」

それって、誉め言葉として受け取っていいのかしら。

っていうか、後輩に気を遣わせる先輩ってだめだよね、と思いながら、くすくす肩を揺らす萌に「ごめん」と小さく笑った。