集まりには私よりも若くてかわいい女子はたくさんいたし、半分やる気のない私にどうして彼が近づいてきたのか。

一部の盛り上がる男女を横目に、早く終わらないかなぁなんて顔をしてカシスの入ったカクテルを飲んでいた私の横にすっと座った彼が言った。

「やけに楽しそうに飲んでるね」

それは全く嫌味っぽくなく、ふざけてるわけでもなく、かといって私を気遣ってる様子でもなく。

空いていた隣の席に座った彼はとても自然だった。

あまりに突然にやってきた至近距離のイケメンにごくりと唾を呑み込む。

「そうですね」

その続きをどう繋げようか迷っていたら、私の言葉を待たずに彼がほんのり笑顔で言った。

「確か君は矢田さんだよね。幹事の神田美由紀さんの代理だって聞いてる」

「え、ええ、まぁそんなとこです」

そのことを知ってるなんて、彼は美由紀と親しいんだろうか。

だけどそんな疑問もすぐに掻き消されるほど美しい彼の目に呑み込まれる。

「俺もこういうの本当はすごく嫌いなんだよね。幹事にどうしてもって頼まれて参加したんだ。ずっと早く終わらないかなぁって思っていたら、君がつまんなそうな顔でカクテル飲んでるのが目に入った」

「はぁ……」

「その瞬間、この場所と時間がものすごくおもしろくなるような予感がしてさ。矢田さんと俺、同じ境遇で参加したのも何かの縁かと思うんだ。今度あらためて俺と二人きりで会わない?」

「へ?」

彼は、我が耳を疑ったまま固まる私の手に自分の名刺を握らせると、すくっと立ち上がり皆に顔を向けた。

「ごめん、緊急オペが入ったみたいだ。お先に失礼するよ」

女子達の何人かが「えー」と明らかに残念そうな声を漏らす。

後ろ髪引かれているであろう女子には気にも止めない様子で彼は颯爽とその場を後にしたのだった。

緊急オペが嘘だってことは私しか知らない。

手渡された名刺に恐る恐る視線を落とすと『T大病院 脳神経外科 竹部大』という文字が飛び込んでくる。

まじか……。

あんなイケメンの上に外科医ときた。

緊急オペでお先に失礼、なんてセリフを恥ずかしげもなく言えちゃうとは。

まるでドラマの世界だ。
なんて、ぼんやりと彼の去っていった方を夢見心地で見つめていた。