妙に納得するようなことを言われて、これ以上拒否するのもどうかと思い始める。

「それじゃ、今夜だけ」

お酒が進むにつれ、嫌でも饒舌になっていく。頭でセーブしなくちゃとわかってるのに、お酒の力というものは恐ろしいもので。

あれほど自分のことも相手のこともお互い知らないままでいようと思ってたのに。

ハンドルネームのsho-の本名は翔だと言っていた。

苗字はお互い言わなかったけれど、聞いといて自分の名前を教えないのはずるいと翔に乗せられ、私の名前が美南だってことも教えてしまった。

二人とも東京出身でどこで働いてるかはお互い内緒。

翔は私より二つ年上だということもわかった。

彼は物事をよく知っていて、語彙が豊富で話していたらあまりのおもしろさにぐっと引き込まれる。

着てる服も明らかに仕立てがよく、ちょっとした仕草も品があるのはきっとそれなりの家柄じゃないかと感じた。

私の周りにはなかなかいないタイプの人種だったから。

「美南が城を好きになったきっかけは?」

「祖母のおかげかな。私が小さい頃いつも近所の城跡の公園に連れていってくれてていてね。その城跡がとても面白い場所で、むき出しになった石垣だけしか残っていないんだけど、一つ一つ丁寧に計算されて積み上げられた石にロマンを感じたってうか」

「へー、石垣にロマンか。まずはそこが起源だったんだ。興味深いね」

「そう?祖母はそれから色んな城があることを教えてくれてね、まだ元気なうちは一緒に城巡りしていたの」

「おばあさまは今は?」

私はふぅと息を吐き手元に視線を落とした。

「今、入院してるの。最近体調崩してて」

「そうか……早く元気になるといいね」

「そうね。一緒に姫路城行こうって約束していたの。ちょっと遠いから今の状態では難しいかもしれないけど」

翔は何も言わず優しく口元を緩めると静かに頷いた。