目を見開いて彼の顔にくぎ付けになる。

「ど、どうして?」

「どうしてって、ただの偶然」

彼は涼やかに笑うと、カウンター越しのおかみさんに生中を頼んだ。

もう二度と会うことはないと思っていた彼の横顔が、松本城の時よりも至近距離にあるなんて。

私は奥歯をくっと噛みしめて前を向いた。

日替わり刺身と肉じゃがはあきらめて店を出ようかしら。

「はい、お刺身と肉じゃがお待たせ!」

おかみさんはそんな私の気も知らず、満面の笑顔で二つのおいしそうな皿を目の前に置いた。

ぐるるる……。

自分の体が正直すぎて嫌になる。

思い切り隣にも聞こえるような大きな音でお腹が鳴った。

気づいているはずだろうsho-は前を向いたままわずかに目を細めると、敢えてそこには触れずにビールを口に含む。

恥ずかしい上にこれを彼の横で一人で食べることに気が引けた。

思いのほか刺身も肉じゃがも量が多いし。

「食べきれないからよかったらどうぞ」

私は意を決して、二人の間に皿を寄せながら言った。

「ん?」

彼のアーモンド型の目が少し見開かれて皿に視線を落とす。

「いいの?」

「ええ」

「こうやって偶然隣り合わせちゃったけど、meeさんにとっては無関係でいた方がいいんじゃないかと思ってたんだけど」

彼の方に視線だけ向けると、彼は頬杖をついたままた私をじっと見つめていた。

その目があまりにもまっすぐで思わずドキンと心臓が跳ねる。

た、確かにそうよね。

例え偶然にもまた会っちゃったけど、他人の振りすれば他人のままいられる。

いられる?

「くっ……」

sho-はうつ向いて小さく笑うとすぐに顔を上げた。

「冗談。せっかくまた会ったんだしこれも何かの縁だよね。きっと会うのはこれが最後だし、今夜くらい楽しく過ごさない?」