そんな一月半ばのある日の夜、突然翔からの電話が鳴る。

元日の翌日以来の翔の声に、こんなにも胸が震えるのかと自分自身驚きながら耳に当てたスマホをぎゅっと握り締めた。

『遅くなってごめん。なかなか仕事が落ち着かなくってさ』

「ううん、構わないわ。忙しいのわかってるから」

『来週から出張でアメリカに行くことになっちゃってさ。一ヵ月ほど帰れなさそうなんだ』

「一ヵ月も?」

さっきまでの胸の高鳴りが一気にしぼんでいく。

翔が長期で日本を離れるっていうだけでこんなにも心細い気持ちになるなんて。

『で、食事会の日取りなんだけど、今週の土曜は都合どうかな。先の予定が今読めない状況だから、あまり先延ばしにするのも悪いなと思って』

「今週の土曜日って明後日だよね?多分、特に何も予定はなかったと思うから大丈夫じゃないかな」

『急なことでごめん。もしお母さんの都合が悪かったらまた連絡して』

「わかった」

『じゃ……』

「あの!」

思わず大きな声で引き止めてしまう。

『何?』

そんな私の様子に翔は電話の向こうでくすっと笑った。

「あの、えーっと、翔は好き嫌いはないんだったっけ?」

『へ?今更だなぁ。美南はよく知ってるだろ?俺が雑食性で好き嫌いがないってこと』

「あ、そうだったね。ごめんごめん」

『別にいいけど』

「忙しいのに引き止めてごめなさい。じゃ、また母に確認して連絡するわ」

『あっ、と……』

電話を切ろうとしたら、今度は翔が小さく声を出した。