母はソファから立ち上がり満足気な様子でエプロンを締め直すと、再びキッチンに戻っていった。

電話の翔は、少しだけいつもと違っていたような気がする。

歯切れのよさがなくて、すべての言葉に迷いがあるような。

それはまさか翔のお兄さんにプロポーズされたことを知っているから?

昨日の今日だし、さすがにそれはないか……。

いや、兄弟だったら一つ屋根の下だから知ってる可能性は高いよね。

「せっかく翔さんが来てくれることになったってのに、まだ浮かない顔してるんだねぇ」

祖母が意味深に口をすぼめてくすくす笑った。

「色々悩むことが多いお年頃なの!」

私は軽く祖母をにらむとなんとかはぐらかしてみる。

年の功の洞察力はなかなかだから、いつも祖母には私の心を見破られちゃうんだ。

でも、今回ばかりは余計な心配はかけたくないから、きちっと自分自身に決着がつくまではバレないようにしなくちゃ。

結局、自分の中に答えが出ないまま、年始のお休みが過ぎると普段の忙しい生活に流されていった。