「わかったわよ」

渋々翔のLINE電話をプッシュする。

どうか仕事で電話に出れませんように。

心の中で祈りながらスマホを耳に当てた。

それなのに。

『はい』

こういう時に限って一発で出ちゃうんだから。

スマホの向こうに翔の息遣いを感じてドキドキしていた。

会えなかった日々、色んな思いが交錯して混乱している自分の心をなんとか落ち着ける。

『美南?』

「あ、うん。ごめん、急に。今忙しい?」

『少しなら大丈夫だけど、何かあった?』

母と祖母の視線が気になって言葉がうまく出てこない。

母は口パクで「はやく言いなさい」とか言ってる。

「あのね、去年、祖母を姫路に連れていってくれたお礼を母と祖母が是非したいって言ってるの。時間ができたら一度うちに来れない?」

『ありがとう』

そう言ったきり、翔が黙っている。

何かに躊躇っているかのように。

母が目を爛々と輝かせて私の次の言葉を待っていた。そんなに待たれたって翔の答えがまだなんだもの。

『……いいのかな?』

翔はようやく躊躇いがちに答えた。

「もちろんよ。母も早く連絡しなさいってうるさくって」

『そんな大したことしてないんだけど悪いなぁ』

「大したことよ」

『じゃ、お言葉に甘えて。お母さんとおばあさんにはよろしく伝えて』

「うん。忙しい時にごめん、また詳しいことは連絡するね」

『了解』

電話を切ると母が嬉しそうに私の肩をポンと叩いた。

「オッケーなのね?」

「うん。忙しそうだからまた日程は翔と相談するわ」

「あー、よかった。ずっと気になってたから」

私は苦笑しながらも翔と普通に話ができたことにホッとして、食べかけのみかんを口に入れた。