翔の苗字を知らないまま今日まできていたけれど、翔は『竹部 翔』だったんだ。

その事実を知り愕然とする。

どうしてもっと早く知ろうとしなかったんだろう。

「はい、大丈夫です」

「返事は落ち着いてからで構わないから」

「……すみません」

その後、竹部さんとお昼を食べ、ショッピングをしたりしたけれど、すべてが上の空で何も覚えていない。

私の彼が翔のお兄さんだったってこと、翔は知っていたのかしら。

竹部さんと別れた後も、ずっとそのことが気になる。

かといって、今翔に電話して尋ねる勇気もなかった。

私の翔への気持ちは、もう伝えられないの?

例え、竹部さんとのプロポーズを断ったところで私の本当の気持ちは竹部さんにも翔にも言えないような気がしていた。


リビングのソファーに足を投げ出して座り、みかんを剥きかけのままぼんやりテレビに視線を向けていた。

「おやまぁ、お嬢さんがなんて恰好してるんだい」

年末から退院している祖母が車いすに座ったまま私を見て目を丸くする。

「あ、ごめんごめん」

慌てて何度か瞬きをして表情を立て直すと、投げ出した足を下ろした。

「昨日初詣に出かけて帰ってきてから、なんだか浮かない顔だねぇ」

祖母はそう言いうと自分がむいたみかんを一房口に入れる。

「そう?」

「そうだよ。彼氏さんと何かあったのかい?」

まだ祖母にはもちろん母にもプロポーズされた話はしていなかった。