「俺と一緒にアメリカに行ってもらえないかな」

「はい、それは重々わかっています……って、え?!」

半分心の中で耳を塞いでいた私は竹部さんから発せられたセリフをもう一度反復した。

一緒にアメリカに行ってほしいって言わなかった??

背筋を伸ばして、もう一度彼の方に顔を向け尋ねる。

「あの、ちゃんと聞いてなくて、ごめんなさい、もう一度お願いできますか?」

竹部さんは額に手をやり、少し困ったような表情で笑いながらもう一度言った。

「君に一緒にアメリカに着いてきてほしいんだ。要するに俺の妻として」

つ、ま?

って、ええええ~!!!!

信じられないほどのビックリマークが頭の中で騒いでいた。

これは、振られてるんじゃなくて、まさかまさかのプロポーズ?!

「そんなに驚いた?」

「ええ、ものすごく驚いています」

目を最大限に大きくして竹部さんの顔を凝視せずにはいられない。

ってことは、私どうすればいい?

今この状況で、私にはもったいないくらいの竹部さんに向かって「ごめんなさい!」なんて言える?

想像だにしていなかった展開にどうしていいか全くわからなかった。

「突然のことで困ってるよね?」

竹部さんは私の様子を伺うように尋ねる。

「は、い。とても……」

「そりゃ無理もないか。返事は今すぐじゃなくていいよ。ただ、父が式を挙げるならアメリカへ行く前に挙げろってうるさくってね。本当は今日にでも彼女に会わせろだなんてせっついてくるから俺も焦っちゃって申し訳なかった」

「お父様?」

竹部さんのお父さんもきっと優秀な医者なんだろうなと漠然と思う。

「父は、今俺の勤めるT大学病院の院長やっていてね。俺も正月くらいしかゆっくり会う時間がないような多忙を極める人なんだ」

「T大学病院の院長……」

どこかで聞いたフレーズだった。

その院長って、誰かのお父さんって言ってなかった?

誰かって……翔?

翔のお母さんが再婚した相手が確かT大学病院院長だって言ってたよね?

頭の中が真っ白になり、顔の表面がピリピリとしている。

ってことは、翔の血のつながらないお兄さんが竹部さんってこと?

「大丈夫?」

竹部さんが私の顔を心配そうに覗き込んだ。