身動きできないほど強く抱きしめるその腕は姫路の時よりも強くて、彼の唇は優しく甘く私を何度も求めた。

とろけるような彼のキスは、私の身体も心も溶かしていく。

溶けた体に力が入らなくなり、そのまま二人は床に崩れ込む。

明かりを点けていない部屋は真っ暗で、窓からこぼれる街の光だけがかろうじてその存在の輪郭を縁どっていた。

翔の手の平が私の頬から首筋、後頭部を優しく撫で上げる。

愛しいキスとその手の動きだけで頭が真っ白になりそうだった。

自分を完全に見失いそうになり、翔の背中に自分の腕を回しぎゅっとしがみつく。

どれくらい長い時間唇を重ねていたんだろう。

彼の唇がゆっくりと離れていく。

「……ごめん」

その唇が小さく動き、吐息のような彼の声がした。

どうして謝るの?

真っ暗な部屋で彼の表情はまだ見えない。

ただ時々、彼の瞳に反射した光が水面のように泳いだ。

そして、再び私を柔らかく抱きしめると耳元でささやく。

「今だけもう少しこのまま……明日には全部忘れるから」

翔は私の後頭部を何度も優しく撫でながらかすれた声で言った。

「……好きだった、ずっと」

え……。

私が何か言おうとする間もなく、翔は私の体から離れ部屋を静かに出て行った。

彼が出て行った扉は真っ黒でその向こうに明かりがともっていることすら想像できない。


好きだった……


はっきりと彼の声が私の脳裏に刻み込まれていく。

さっきまで翔に塞がれていた唇にそっと指の先を当てた。