お茶屋に入ると、さすが愛媛だけあってみかんジュースの種類も豊富だった。

「迷うなぁ」

メニュー表を見上げながら悩んでいたら、翔の横顔が私の顔のすぐ横に降りて来た。

「どれと迷ってる?」

「温州みかんとデコポン」

翔はすぐに店員を呼び、温州みかんとデコポンのジュースを頼み、「満たされるまで両方飲んで」と言って二つのジュースを私の目の前に差し出した。

「翔は飲まないの?」

両手にジュースを持ったまま尋ねる。

「美南が残した分もらうよ」

私の飲みかけ。

私も翔の飲みかけを飲むのは平気だったけど、今はなんだかそんなことすらも気恥ずかしく感じる。

「ありがとう」

そばにあったベンチに腰を下ろし、温州みかんに口をつけた。

酸味の中に誇示する甘い蜜が口いっぱいに広がる。

「おいしい!」

「温州みかんの方?」

「うん、やっぱりみかんの国ねぇ。きっと松山城でもかつて武士たちがみかんを頬張って戦の疲れを癒していたんでしょうね」

「そうかもな」

翔はそんなくだらない私の話にも笑って答えてくれた。

「デコポン、翔が先に飲んで。私温州みかんメインで味わうから」

微笑む彼の横顔にデコポンジュースが入ったコップを差し出す。

「いいよ。お前が先に好きなだけ飲んでからで」

「だって、一人で飲みにくいもん。一緒に飲もう」

そう言うと、ようやく翔はコップを受け取った。

コップを手渡した時に触れた彼の指にまたしてもドキドキする。

こんなこと、今までなかったのに。

彼の一挙一動がスローモーションで私の感覚に飛び込んでくるんだ。息苦しいくらいに。