でも、日程なんてどうでもいい。私の気持ちは最初から決まっていたから。

「行く」

『行くんだ』

翔は、からかうように言った。

「だって、松山城、見に行きたいもの」

『なるほどね。そういうことにしておくよ。また詳しいことはあらためて連絡する、じゃ』

「あ!」

電話がそのまま切れてしまうのがもったいないような気がして、思わず声が出た。

『何?』

「いや……あの、久しぶりに翔の声聞いたなと思って。最近忙しいの?」

『忙しいねぇ。むかつくくらい』

翔はそう言いながらも不機嫌な様子もなく笑う。

まぁ、いつも私の前では機嫌がいいから、正直本音がどこにあるのかはわからないけれど。

「やっぱり異動と関係があるの?以前はそこまで忙しそうな雰囲気なかったから」

『以前だって忙しかったさ。なんとかやりくりして自分の時間は確保できてたけど、今は上のスケジュールに合わせないといけないからやっかいなんだ。だから大学病院には戻りたくなかったのにさ』

「じゃ、以前は大学病院じゃなかったの?」

『ああ。知り合いの開業医のとこにお世話になってた。大学病院の組織めいた空気になじめなくてね、すぐに外に出たんだ。だけど親父がポストが開いたから戻ってこいって無理やり行く羽目になった』

親父?

お父さんも大学病院にいるってこと?

彼の背景に少しずつ色が着けられていく。

今まで彼の背後にある景色を見ようともしなかったし、見えたこともなかったのに。