「私は大丈夫よ。本当に窮地に陥った時は萌に慰めてもらうわ」

萌が握っている手から自分の手をそっと解きながら笑った。

私だって、慰めてもらう時はある。

辛い時、一人でいられなくて誰かにそばにいてもらったこともある。

……翔。

彼だけは自分の弱いところを見せることのできる唯一の人。

萌が私から元気をチャージしてるとしたら、きっと私の元気の元は翔だったのかもしれない。

そんな思いが一気に私の頭の奥に沸き上がってきた。

それは、今まで当たり前のことで不思議だと思ったこともなかったのに。

萌に自分のことをそんな風に思ってもらっていたなんて聞いたら、翔の存在がますます当たり前ではないような気がした。

松山城。

一緒に行きたい。

翔から連絡がないなら、私からすればいいんだわ。

ただそれだけのことをどうしてこんなにも躊躇していたのかしら。

竹部さんに振られるかもしれない、自信を喪失した私の元気を取り戻してくれるのは翔しかいないんだから。

萌と別れた後、電車の中でずっとスマホを握りしめていた。

この期に及んで、未だに翔にメッセージを送れない自分がはがゆい。

こんなにも自分の気持ちが前に出ないことなんて今までなかった。

思い切って翔のLINEを開く。

【元気してる?松山城はどうなったの?】

それだけ打ち、送信ボタンを見つめた。

私が元気じゃないから送るだけ。

元気じゃないから松山城に一緒に行きたいだけ。

送信ボタンにそっと触れた。