特に目標もなく、日々問題さえ起こらなければそれでよしという気持ちで生きている私には、萌みたいなチャンスが訪れるような気がしなかった。

「なんだか萌がうらやましいな」

ワイングラスを傾けながらポツリと呟く。

萌は飲みかけたワイングラスをくわえたまま、丸い目を更に丸くしてこちらに視線を向けた。

「どうしてですか?私は矢田さんの方がずっとうらやましいのに」

「だって、きちんと自分を見つめて、軌道修正するなかで生きるべき道を選べてるもの。私なんて、ただ行き当たりばったりなだけで、萌みたいに誇れるものなんて何もない」

「私は矢田さんみたな人になりたくてもなれない。だから決まった道を見つけないと歩けないだけです」

まっすぐに私を見つめる瞳に嘘じゃないと感じる。

萌みたいな人にそう言ってもらえることはとても嬉しいことだけど、そんな自分に全く納得のいっていない私はその目を長く見つめ返すことはできなかった。

「ありがとう」

小さく言って口元を緩めると、手元のワイングラスに視線を落とす。

あー、なんだか情けなくなっちゃうな。

美由紀も萌も、しっかりと自分の生きる道を選んで歩いているのに、自分だけがその背中を何もせずぼんやりと見送っているだけなんて。

その時、バッグの中のスマホが震えている音がした。

ひょっとして翔?

そろそろ旅のことで連絡かしら。

私は「ちょっとごめん」と萌に言うと、スマホを取り出した。