「べ、別に」

平静を装ったつもりだったのに、しっかり声が裏返る。

余計にドキドキが激しくなり体が熱くなっていった。

逃げれるものならこの場所から逃げ出したいけれど、今は高速道路の上。

車から飛び出すわけにもいかず、膝の上で両手をぐっと握りしめるしかできない。

「まだ、俺と一緒に松山城行く気持ちは変わってない?」

わ。

そうだった。

二人で一緒に行くだなんて約束しちゃってたよね。

しかも一つの部屋でいいだろ?なんて言われてたっけ。

今となってはあの提案も序章だったってわけなの?

それとも、単に私をからかってるだけ?

鼻から息をすーっと吐いて答えた。

「もちろん、変わらないわ」

「へー」

翔は意地悪な声を出してニヤッと笑うと続けた。

「俺、それ以上のこと美南にするかもしれないけど」

その声のトーンは彼の表情とは裏腹にやけに落ち着いていて信憑性を持たせるものだから、余計に私の気持ちが揺さぶられる。

翔は一体どういう魂胆があってこんなこと言うの?

思いきって助手席から彼の方に体ごと向ける。

「昨日からどうしてそんなことばかり?」

「どうしてだろうね」

翔は一瞬だけ私に視線を向けると、「衝動かな」と独り言のように小さく呟いた。

「衝動?」

「自分の意思以上の何か得たいの知れないものが俺に言わせてるのかも」

「ずるい言い方」

私は再び体を正面に戻し、椅子に深く座り直す。

「じゃ、美南は俺の本心を受け止める勇気はある?」

本心?

私は目を見開き翔の方に顔を向けた。