もう少し頑張る?と聞かれて、夏歩は黙ったまま悔しげに津田を睨む。
それで答えを察した津田は「さてと」と言って立ち上がった。


「そろそろ夕飯の支度でもしようかな。今日はね、オムライスにしようと思ってるんだ。なっちゃん、玉子は固め派?それともとろとろ派?」


頭の中に二つのオムライスを思い浮かべながら考えて、考えながら津田を睨みつけて、やがて夏歩は「とろとろ……」とポツリと零す。津田は笑って頷くと


「お風呂も沸かしておいたから、先に行ってきてもいいよ。その間に作っておくから」


言うだけ言って、夏歩の返事は待たずにキッチンに向かう。
その背中を、夏歩は悔しげに見送った。


「……一個くらい、絶対あるはずなのに」


それは、津田に問われた例えばの話。
絶対にあるはずだとは思っても、ないわけがないと考えてみても、咄嗟には何も出てこない。それが悔しくて、夏歩は不満顔でマグカップに口をつける。

けれど、ココアがふわりと香った瞬間に、その表情はあっけなく崩れた。
そんな夏歩に背を向けて、津田は鼻歌交じりに包丁を動かす。



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