自炊はほとんどしないから気が付けば冷蔵庫が空っぽ、なんてことはよくあるけれど、未だにココアを切らしたことは一度もない。
大好きなココアに、夏歩はそっと息を吹きかける。大事に、大事に、そおっと息を吹きかける。
それからゆっくりとマグカップに口をつける夏歩の姿を、津田は口元に笑みを浮かべて見つめる。
一口飲むと、濃い甘さが口の中に広がって、その瞬間夏歩の頬が緩んだ。津田もまた、満足げに笑う。
しばらくは、幸せそうにココアを堪能する夏歩と、それを幸せそうに見つめる津田という、何ともほのぼのとして和やかな光景が部屋の中にはあった。
しかしやがては、夏歩も気が付く。すっかり忘れていた、その存在を。テーブルを挟んだ向かい側で自分を見つめる、男のことを。
「なんでまだいるの。いや、間違えた。なんで“また”いるの」
唐突だね、と津田は笑う。
「なっちゃんには、俺が要りようかと思って」
「ぜんっっっっぜん、いらない」