なぜ津田に仕切られているのか、どうにも納得いかない気持ちを顔に出しながら、ここは果たして誰が家主の部屋だっただろうかと考えたりしながら。
はい、なっちゃん。と聞こえた声に、夏歩はハンガーラックの前で振り返る。
湯気の立つマグカップを手にした津田がテーブルの前に立っていて、ヘラっと笑って夏歩を見ていた。
マグカップの中身を夏歩は知らないけれど、なんとなく頭に浮かぶものはあって、もしかして……と思った瞬間、それまで浮かべていた表情も、納得いかない気持ちもふっと忘れて、引き寄せられるように津田のもとへ歩いていく。
夏歩が歩き出したのを見てその場に腰を下ろした津田は、自分の向かい側に持っていたマグカップを置いた。
そのマグカップの前に、夏歩はストンと腰を下ろす。
ここまでくれば、湯気に乗って香りも届く。
ふわりふわりと立ち上るのは、甘い香り。夏歩が先ほど頭に浮かべた、大好きな物の香り。
「好きだよね、ココア」
好きだけれど、素直に頷くのは悔しくて、夏歩は黙ってマグカップに手を伸ばす。