言うが早いか財布を手にして腰を浮かせた美織を慌てて遮って、夏歩はもごもごと答える。


「なに、途中ですっ転んでぐちゃぐちゃにしちゃったとか?」

「……いや、そう言うわけでもない、と言うか……」


じゃあなによ、と美織は妙に歯切れの悪い夏歩を不思議そうに見ながら、浮かしかけた腰を椅子に戻す。

そのタイミングで、夏歩はロッカーから取り出してからずっと隠すように膝に載せていたランチバッグをおずおずとテーブルの上に出した。


「……夏歩が、お弁当を持ってる」


それを見て、衝撃を受けたように美織が呟く。


「しかもそれ、一人暮らし始める時に、これからは積極的に料理する!って意気込んで買ってたやつよね。あたしも一緒に選んだ……」


夏歩はコクっと頷いてみせる。
一人暮らしを始めた当初、つまり大学生になりたての頃は、夏歩にだってそれなりにやる気はあったのだ。