津田からの連絡を、“ごめんね、今朝は寝坊しちゃった”というなんてことないメッセージを、待っている自分がいる。

でもそれを、待っているという事実を、否定したい自分もいる。

色んなものが、自分の中に渦巻く感情が、美織や津田にかけられた言葉が、これまであった出来事が、ぐるぐるぐちゃぐちゃと夏歩の中で混じり合う。

何が何だかもう訳がわからなくなるほどに、混じり合って溶け合って、最後には何を考えていたのかもわからなくなる。

そんな時、ガチャっと鍵の回る音がした。
夏歩は勢いよく体を起こし、部屋のドアを凝視する。

ややあって玄関のドアが開いたのは、夏歩の部屋ではなくその隣だった。

明らかな落胆のため息が夏歩の口から零れ落ちて、なんだ違うのか……と思ったところでハッとする。


「……いや、別に残念とかじゃないし。全然違うし。むしろこれは、ホッとしたことによるあれであって、ぜんっっっっぜん、そういうのじゃない!」


美織が聞いていたらきっと大いに呆れただろう夏歩の独り言。津田だったなら、ほんと素直じゃないねと笑ったかもしれない。

二人の顔と、二人の言葉が脳内を駆け巡って、夏歩の口から盛大に息が吐き出される。
あーもう、煩い!煩い!と誰にともなく心の中で喚いて、夏歩はベッドから降りた。