家に帰ると見慣れた男物の靴があった、なんてこともなく、玄関に立っているだけで部屋の中がシーンと静まり返っているのがよくわかった。


「……なんか今日は寒い……ような?……気のせいかな」


靴を脱いで廊下を抜けた夏歩は、ドアを開けて部屋に入るなり、真っ暗な部屋に電気をつける。
当然そこには、誰もいない。

ついさっきまで真っ暗だった部屋に、電気をつけた途端に人が立っているのが見えたらとんでもなくホラーだが、とにかく部屋の中に津田の姿はない。

トイレとお風呂場は、確認するまでもないだろう。そもそも靴がないのだから、家の中には現在夏歩しかいないのだ。

一応スマートフォンを確認してみるが、連絡はない。

ひとまず夏歩は部屋に入ってドアを閉めると、鞄と上着をテーブルの脇に放……ろうとしてやめて、ハンガーラックにかけに行く。

身軽になったところで、着替えもせずにベッドに仰向けに転がった。

そんなことをしていれば、いつもならすぐさま「なっちゃん」とか「寝ないでよ」などの言葉が飛んでくるのに、今日は大変静かだ。