「覚えてないの?ほら、高二の職場体験の時、夏歩ってば学校に提出しなくちゃいけないプリントを風で飛ばしちゃって、慌てて追いかけて行ったじゃない。凄い勢いで走って行って、プリントに追いついたはいいけど勢いが付きすぎて止まり切れなくて、地面に落ちたプリントを踏みつけながら盛大にこけたでしょ」


美織が言うのならばそうなのだろうが、当の夏歩は全く覚えていない。
話を聞いてもなおキョトンとしている夏歩に、美織は苦笑する。


「腕も脚も擦り傷だらけで、膝なんて相当グロテスクなことになってたっていうのに。とても自転車漕いで帰れるような状態じゃなかったから急いで先生呼んで、夏歩は車で病院まで連れて行かれたのよ」


そんな大事件を覚えていないというのはどういうことなのか。怪我が酷すぎてショックで記憶が飛んだのだろうか。


「津田なんて汗だくになって病院に駆け付けて、もう大騒ぎだったんだから。看護師の人に、お静かに!って何度も注意されて」


そこまで言われてもちっとも思い出せない夏歩は、「へー……」とどこか他人事で話を聞きながら、合間におにぎりを齧る。そんな夏歩の反応に美織はまた苦笑して