「日焼けが嫌なの、カレンでしょ。

 自分の欲の為に兎羽の名を語らないでくれる?」


ぞくっと背筋が冷える。



私に言ってきている訳ではないのに、冷たい視線とオーラに圧倒される。


会った時のレトリバーと同じ人物とは思えない。


「あら、ごめんなさい。

 レオ先パイはトワを相当気に入っている様だったから

 トワの名前を出せば交渉が楽になると思いまして。

 ま、交渉する前に行動なさってて驚いたけれど。」


急変したレオ先パイに怯むこともなくいつもと変わらない毅然とした態度のカレンちゃん。


ひんやりとした空気が漂う。



「それに、実際トワだって日焼けしたくないでしょう?」


「え!?

 まぁ、好んで日光に当たりには行かないかな…。」


急に話を振らないでカレンちゃん!


私はこの冷たい空気に耐性がないの!



今だって心臓がバクバクしてる。



鋭い目をしているレオ先パイと目が合った。


…と思ったらレオ先パイの眉が下がって口角が上がった。


「ごめんね、兎羽。

 怖がらせちゃったか。

 そんなに怯えなくて大丈夫。」


レオ先パイの手が私の頭に伸びてきたけど、途中でピタッと止まって腕が下ろされた。


「本当は撫でたいけど、

 さすがにここでやったら兎羽が困るか。

 我慢するよ。」


いつもより寂しそうな笑顔の先パイ。


いつの間にか凍るような空気はどこかへ行っていた。



心に少し余裕ができて、ふと疑問に思った。



私、そんなに怯えた顔してたのかな。


一応笑みを浮かべていたはずだけど…。




「カレン。

 今回は許すけど、次はないから。

 わかったね?」


「えぇ。次からは素直にトワにお願いするわ。」


私が俯いて考えていると、上からレオ先パイとカレンちゃんの声が聞こえた。



え、私にお願いする…?



カレンちゃんの言葉に顔を上げると、レオ先パイと目が合った。




「兎羽は自分のことだけ考えていればいいからね。」


甘すぎる優しい視線が私の視線と絡み合う。


やっぱりこの完璧人間サマが考えていることは、私にはわかりそうになかった。