そんな時であった。
達郎さんがいる冷熱会社で、インドネシアに事業を拡大するプロジェクトが近く始まると言う話があった。
それを聞いた達郎さんは、インドネシアへ転勤することと海外事業部へ異動願いを人事部に直訴した。
達郎さんが下した超特大の英断を聞いたアタシのおじが、激しくおたついた。
インドネシアでのプロジェクトのスタッフさんは、この時点ではまだ発表されていなかった。
しかし、達郎さん自身が人事部に直訴したことを聞いたおじはだまって見過ごすわけには行かなかった。
達郎さんが人事部に直訴してから3日後のことであった。
営業1課のオフィスの電話がけたたましく鳴り響いた。
別のOLさんが電話に出た。
「はいもしもし…課長、専務室から電話です。」
「分かった。」
達郎さんは、おじから電話で呼び出されて専務室へ行った。
専務室にて…
おじからインドネシア行きを人事部に直訴したことはどういうことなのかを問われた達郎さんは、答えを返した。
「どうしてって…自分を変えたいから決断したのです!!それのどこがいかんのですか!?」
「いや、そう言うことは言っていないよ…ただ…まだ、現地スタッフさんの人選が始まったばかりで、はい決定しましたと言うわけじゃないから、あまり先走らないでくれ…」
おじは、あつかましい口調で達郎さんに言うた。
達郎さんは、いままでため込んでいた不満をおじにブチ曲げた。
「専務、私は会社でいる人間でしょうか?それともいらない人間でしょうか?」
「何を言っているのだね!!熊代くんは、会社でいる人間なのだよ…いる人間だから口やかましく言うているのだ…熊代くんが新入社員の時に、1からきたえあげたのは私なのだよ!!」
アタシのおじは、達郎さんに本社にいてほしい気持ちで口やかましく言い続けた。
おじは、達郎さんに営業部の部長に昇進してほしいと願っていた。
しかし達郎さんは、それをけつってインドネシア行きを人事部に直訴した。
それは一体どう言うわけか?
たぶんそれは、アタシと会いたくない気持ちがあることとアタシの両親や達郎さんの実家の家族たちと顔を合わせるのがイヤだと思う。
インドネシアに赴任した場合、4~5年は現地に駐在することになる。
達郎さんは、そのことを知った上で人事部に直訴したと思う。
それから2週間後…
インドネシア行きのスタッフさんが決まったが、その中に達郎さんの名前はなかった。
達郎さんが選ばれなかった理由は『他に優秀な若手がいたから。』と言うことである。
しかし、本当の理由は『達郎さんは近い将来に営業部の部長、または次長に昇進させる予定だから本社に居てほしい…』と言うことである。
同時に、おじは達郎さんにアタシともう一度やり直しの機会を与えた。
もう一度、お見合いして、お付き合いして、プロポーズから結婚…
そして温かい家庭を作ってほしい…
…とおじは思っていた。
もうひとつは、達郎さんの兄夫婦の結婚のことがからんでいた。
達郎さんの兄夫婦が挙式披露宴を挙げる際に、予算が大きく不足したので、不足分をアタシの両親が出した…
そのご恩返しをするために、おじは達郎さんの結婚相手をアタシと決めた。
それから10日後…
達郎さんは、社長さんに辞表を渡した。
「長い間ごくろうさまでした。確かに辞表を受け取りました。」
「はっ。」
辞表を出した達郎さんは、デスクの整理を始めた。
達郎さんは、数日前に会社を休んで松山の(国立)四国がんセンターへ行って、胃の検査を受けた。
「課長、大丈夫ですか?」
「まあね。」
「おやめになるのですね。」
「療養のためだ…また再就職をしてがんばる…みんなも元気でね。」
達郎さんは、笑顔でスタッフさんたちとお別れをした。
達郎さんが会社を去って行く様子をアタシのおじは遠くから見つめた。
その頃、アタシは新しい恋を見つけるために、自分の力で結婚相手を探すことを決意した。
仕事が終わったアタシは、衣干神社のバス停からバスに乗りまして、今治市内へ向かった。
どんどび交差点の付近にある居酒屋にて…
3対3の合コン方式で、コンカツパーティーが行われた。
「えー、それでは…コンカツパーティーを始めたいと思います…では、自己紹介をどうぞ。」
まずは、自己紹介から始まった。
その後、カップルを作る。
そして、食事をしながら楽しくおしゃべりをした。
アタシたちがコンカツパーティーを楽しんでいる時であった。
パーティーをしている席から4つ先の席に、達郎さんが座っていた。
達郎さんは、一人ぼっちで生中をのんでいた。
「おかわりちょうだい。」
「生中おかわり。」
達郎さんは、ちらっとコンカツパーティーの方を見た。
しかし、達郎さんはすぐに目をそらした。
コンカツパーティーは、和気あいあいの中で行われた。
最後に、お付き合いをするかどうかを確認した。
アタシは、一緒にお話をしていた男性とお付き合いをしたいと思ったが、丁重にお断りを入れた。
パーティー終了後、アタシは家に帰宅した。
「ただいま。」
家に帰って来たアタシに、母はこう言うた。
「お帰りなさい…あんた今日は遅かったわね。」
「友達と会ってきたわ。ごはんも食べて来たから…」
「そう。」
アタシの母は、ひと間隔を空けてからアタシに言うた。
「はるか。」
「なあに?」
「さっきおじさんから電話がかかってきたわよ。」
「えっ?おじさんから?」
「そうよ…きょうね、達郎さんが会社をやめたのよ。」
「達郎さんが会社をやめたって?」
「本当のことよ。」
「ええ!!どうしてなの!?」
アタシの問いに、母はこう答えた。
「体調不良でやめたわ…あと、インドネシアへ長期出張の人選のことをめぐって、会社の人ともめた…他にも、達郎さんはいろんなことで悩んでいたのよ…仕事のこと、実家のご家族のこと、そして自身の結婚のこと…はるか!!」
アタシは、キョトンとした表情を浮かべていたので、母に怒鳴られた。
「はるか!!あんたもいかんのよ!!どうして達郎さんが傷つくようなことしたのよ!?」
アタシは、達郎さんが家の近くのアパートに引っ越しをして来た理由を始めて知った。
朝夕は家でごはんを食べていた理由…
通勤時間の時には喜田村のバス停までは一緒に行きなさいと言われた理由…
それって…
アタシの母は、なおも怒った。
「はるか!!達郎さんが結婚適齢期を逃した最大の原因は、達郎さんの実家の両親と兄夫婦が無関心だったことにあったのよ!!家族の協力が得られなかったことが原因で、お嫁さんが来なかったのよ!!それが分かっていないわね!!」
アタシは、それを聞いてビックリした。
「はるか!!どうしてあんないい人を傷つけたのよ!?あんたはやっぱり、生まれた時から結婚する資格なんかなかったのよ!!」
アタシを怒鳴りつけた母は、泣き出した。
アタシはそれを聞いて、泣きそうになった。
アタシは、自分のことだけしか考えていなかった…
そのせいで…
達郎さんの気持ちを傷つけた…
ああ…
アタシは、どうして達郎さんにあんなひどいことを言うたのか…
悔やんでも悔やんでも…
悔やみきれない…
そう思うと、アタシは一睡もできなかった。
それから何日かして…
アタシは、達郎さんが暮らしていた通町の賃貸マンションへ行った。
「ここね。」
アタシは、白のワンピース姿で、右手にハンドバッグを持って、左にわびの菓子折りが入っている母恵夢(ぽえむ・洋菓子屋さん)の紙袋を持っていた。
アタシは、達郎さんが住んでいた部屋へ行った。
しかし、玄関の入り口の名札がなかった。
あれ、どうしたのよ一体…
「どちら様ですか?」
近所のおばちゃんがアタシに声をかけた。
アタシは、部屋の住人のことをたずねた。
そしたら…
「そこの住人ね…今朝出ていったわよ。」
「出ていった?」
「『家賃が払えなくなった…お世話になりました…さよなら…』と言うて出ていったわよ。」
そんな…
「熊代さん、家賃を2ヶ月分滞納するなど問題を抱えていたからねぇ…まあ、熊代さんが自発的にタイキョしたので、うちらはせいせいしたと思ってるわよ。」
「そんな…」
住人の女性は、アタシにぐちっぽく言うた。
アタシは、ものすごく不安になった。
もしかしたら…
達郎さん…
どこに行ったのよ…
アタシの心の中で、激しい動揺が起こった。
アタシは、達郎さんの実家に行って、ご家族に達郎さんの消息をたずねた。
しかし、ご家族のみなさまは『しらんしらん』と一点張りであった。
結局、達郎さんの消息を知ることはできなかった。
ああ…
アタシは心配でたまらない…
せめて、連絡だけでもしてほしい…
アタシは、不安な思いを抱えて生きて行くことになった。
達郎さんが、会社をやめてから2年の歳月が流れた。
この時アタシは、29歳になった。
今のアタシは、恋人を作って結婚したいと言う気持ちは薄れた。
アタシは、誰にも頼らずにコンカツをしていたが、途中でリタイアした。
お見合いパーティーに参加したり、合コンに行ったり、愛媛県の結婚支援センター主催のコンカツイベントにも足を運んだ…
けれど、失敗ばかりが続いた。
印刷会社の人からの紹介で、総務の27歳の男性とお見合いをしてお付き合いをしたけど、途中でやめた。
相手の男性がデート中にちらちらと腕時計を見ていたしぐさが目障りだった。
相手の男性がデート中にひっきりなしに腕時計をみていたので、アタシが『どうしたの?』と聞いた。
相手の男性は『おふくろが晩ごはんまでには帰ってきなさいと言われているのだよ…』とつらそうな声でアタシに答えた。
それを聞いたアタシは『はぐいたらしいわね!!マザコンサイテー野郎!!』と怒鳴りつけたあと、し烈なビンタを喰らわせた。
相手の男性は『ママ~』と言いながら泣き叫んだ。
アタシは、ビービー泣き叫んでいるマザコンサイテー野郎をするどい目つきでにらみつけた。
それからアタシは、紹介してもらう→付き合う→だが、幻滅する→怒鳴りつけて別れる…と言うパターンがつづいた。
どうして…
どうしてなのよ…
この時アタシは、結婚しない方が得だと想うようになった。
そして、達郎さんと別れてから2年目の春がやって来た。
アタシは、東門町のフジグランで大学時代の友人と再会したあと、ショッピングに行った。
友人が『夏物の新作を買いたい。』と言うたので、ショッピングモール内にあるブティックへ一緒に行った。
ショッピングの後、アタシは友人と一緒にマクドナルドに行って、照り焼きバーガーのセットを注文した。
注文の品を受け取った後、ふたりは、空いている席に座って、照り焼きバーガーを食べながら身の上話をした。
「ねえ、はるか。」
「なあに、まあちゃん。」
「あれからさ、どうなっちゃったの?」
「どうなったって?」
「ほら、あんたと付き合っていた30過ぎの背の高いタケヒコさんのことよ。」
「別れた!!」
アタシがそのように言うと、まあちゃん(友人)はおどろいた声で言うた。
「また別れたの?」
「だって、超むかつくマザコンサイテー野郎だから、一時間で別れた!!」
「また別れたの?」
「大の大人がママママママ…っていよんのがむかつくのよ!!だから、往復ビンタを喰らわせて別れた!!」
「困ったわね…はるかはなんで長続きしないのかなぁ?」
「恋が…長続きしない?」
「そうよ…あんたは、どう言うタイプがよくて、どう言うタイプはダメと言うのよ?」
「どう言うタイプがいいかと言うと…年収が500万以上で、自分の住む場所があって、自力で生活ができる男性と結婚する方がいいのよ…ダンナの実家で、ダンナの両親や兄弟姉妹(きょうだい)たちと同居する結婚生活は絶対イヤ!!…結婚しても親元で暮らすのは、自立できないサイテーのバカ男なのよ!!」
アタシの言葉を聞いたまあちゃんは、大きくため息をついてからアタシに言うた。
「分かったわ…あんたの場合は、ダンナの両親や兄弟姉妹(きょうだい)たちと同居すると言う結婚がイヤなのね…結婚しても親きょうだいと同居を続ける男はイソンショウだからどうしようもない大バカと言うのね…よくわかったわよ。」
「まあちゃん。」
まあちゃんは、アタシにこう言うた。
「今のはるかの性格では、男の人はみんないやがるわよ。」
「いやがる?」
「当たり前でしょ!!はるかの意固地な性格が原因で潤一さんや達郎さんを傷ついたのよ!!そのまた上に、あきのりくんも傷つけたと言うことに気がつきなさいよ!!」
まあちゃんから厳しい言葉を言われたアタシは、ひどく落ち込んだ。
フジグランでまあちゃんと別れたアタシは、夕方ごろ、織田ヶ浜の近くにあるわが家に帰った。
アタシは、元気がない声で『ただいま。』と言うた。
「お帰りなさい。あんた、元気がないわね…どうしたのよ一体。」
元気のないアタシに、母は『お茶を入れるわね。』と言うた。
ダイニングにて…
お茶を入れた母は、アタシがくるのを待っていた。
「はい、お茶よ。」
「ありがとう。」
母は、アタシが使っているパンダもようのマグカップ(楽天の景品だけどね…)に入っているお茶を差し出した。
母は『どうしたのよ。』とアタシにたずねた。
母からの問いに対して、アタシはこう答えた。
「かあさん。」
「何よ。」
「結婚って…なんのためにするものかな?」
「なんのためって、自分の幸せのためでしょ。」
「かあさんが言っている自分の幸せって…何なの?」
「はるか。」
「スイートホームを夢見て結婚したら、実際は違っていた…ダンナの両親や兄弟姉妹(きょうだい)たちやダンナの身内と同居なんて、アタシはイヤ!!…だから、結婚なんかイヤなのよ!!」
アタシの言葉に対して、母はこう言うた。
「分かったわ…はるかがそのように言うのであれば、結婚しない方がいいわよ…でもね、達郎さんのことはあんたに話しておくから…」
「やめて!!達郎さんの話なんか聞きたくないわよ!!」
「はるか、落ち着いて話だけでも聞いてよ…おじさんが、あんたと達郎さんの結婚を思いついた理由は、おカネのもめ事を解決するために思いついたのじゃないのよ。」
「おカネじゃなかったら、なんだと言いたいのよ!!」
「おじさんは、厚意(こうい)であんたと達郎さんのお見合いのお世話をしたのよ…おじさんは困っている人を見ると、ほっとけないから厚意で人助けをしたのよ…」
「そんなのウソよ!!アタシは信じない!!」
アタシの言葉に対して、母はふてくされた声で本当のことを話した。
「はるかの言うとおり…はるかと達郎さんのお見合いは、金銭的なトラブルを解決するためのお見合いだったのよ…達郎さんのお兄さん夫婦の結婚問題に加えて、達郎さんのお父様が、葬儀の受付をしていた時に、お腹を壊してトイレに行っている間に香典をなくした…達郎さんのお父さまは、先方様から300万円を弁償しなさいと言われたので、金策に困っていた…300万円は、おじさんが用立てたあと、先方さんとジダン交渉したことで、問題を解決することができた…おじさんがいなかったら達郎さんのお父さんは助からなかった…達郎さんの家はおじさんから金銭的な面で助けていただいたので、恩返しをしなければならなかった。」
「だから、達郎さんはなにもかもガマンしたと言うの?」
「それもあるけれど…達郎さんが結婚適齢期になっていた頃は、はるかはまだ中学生だったのよ!!」
「それで、達郎さんを待たせたのね?」
「おじさんは、達郎さんにすまないことをしたと今でも思っているわ…おじさん、去年の暮れに…倒れたのよ!!」
「おじさんが…倒れた?」
「会議中にくも膜下出血を起こして倒れたのよ!!…もう、長く生きられないと思う…あんたね!!おじさんに悪いことをしたと思っているのであれば、きちんと心の底からおじさんにあやまりなさい!!」
「かあさん。」
「はるかのシューカツがうまく行かない時に、ハラプレックス(印刷会社)に入社出来たのも、おじさんがハラプレックスの人に必死になって頼んだのよ!!はるかはそのことが全く分かっていないわね!!」
母から厳しい口調で言われたアタシは、ひどく落ち込んだ。
アタシは、達郎さんが今どこでどんな暮らしをしているのかを母にたずねた。
「かあさん…達郎さんは今、どこにいるの?」
アタシの問いに対して、母は達郎さんは冷熱会社をやめたあと、家出をして行方不明になったと答えた。
達郎さんは、会社をやめて家出をしたあと貯金を取り崩して、家出中の生活を維持していた。
しかし、それに限界が来たのでケーサツのお世話になった。
達郎さんは、冷熱会社には復帰しないと言い張った。
その後、達郎さんは松山にいる母の知り合いのコネで勝岡町の運転免許センターの近くにある障害者の就労会社に再就職して、伊予市のスーパーストアの清掃の仕事をしていることを聞いた。
アタシは、次の休みの日に達郎さんのいる伊予市へ行くことにした。
5月の第2土曜日に、アタシは拝志(はいし)のバス停から小松の総合支所(西条市)までバスに乗った。
小松の総合支所でバスを降りた後、松山行きの特急バスに乗りかえて、桜三里(とうげ)を越えて、松山市駅まで行った。
松山市駅で特急バスを降りたアタシは、伊予鉄郡中線の電車に乗って郡中駅まで行った。
郡中(ぐんちゅう)駅で電車を降りたアタシは、踏み切りを2つ越えて、達郎さんが清掃の仕事をしているフジ(スーパーストア)へ行った。
アタシの服装は、上は黒のタンクトップの上から白のブラウスをはおって、下はネイビーのレギンスをはいて、白のトートバッグを持って、白いシューズをはいていた。
達郎さんが清掃の仕事をしているスーパーストアについた。
アタシは案内の人に、達郎さんはいますかとたずねた。
案内の人は『達郎さんは、数日前にやめたよ。』と答えた。
それを聞いたアタシは、びっくりした。
やめたって…
どうしてなの…
案内の人は、生ぬるい声でアタシに言うた。
「やめた理由は分からないけど、ソートーつらそうな顔をしていたわよ。」
「やっぱり…」
「しかし、もったいないことをしたわねぇ…ビーマック(冷熱会社)やめたからなにもかもパーになったのよ…ビーマックにいたら終身雇用で、固定給で、老後の年金は安定して…人生バラ色だったのに…」
「それで、達郎さんは今どうしていますか?」
「おじょうちゃん、そんなに知りたいのであれば、五色姫(海浜公園)へ行ったらぁ…」
「五色姫…」
「達郎さんは、キャバの女のヒモになったのよ…おじょうちゃん、やっぱり会わない方がいいわよ…ショック受けるわよ。」
ところ変わって、五色姫海浜公園にて…
アタシは、遠くから達郎さんをながめた。
達郎さんは、キャバの女3人とイチャイチャしていた。
今の達郎さんは、伊予鉄郡中駅のすぐ近くにあるロフト式のマンションでキャバの女3人とドーセーしていた。
達郎さんは、キャバの女3人のヒモになった…
ビーマックをやめたことも、実家の家族にメーワクかけたこともおかまいなしになっていた…
サイテー…
サイテーね…
アタシは、松山市駅行きのいよてつ電車の中でグスングスンと泣いた。
そして、夏がやって来た。
7月の半ば頃、梅雨明けしてから最初の週末を迎えたある日のことであった。
アタシは一人で、東門町のフジグランにいた。
フードコートで注文した石焼きビビンバを取ったあと、空いている席に座って食べようとした。
「ここに座っても、いいかな?」
その時、ひとりの男性がアタシに声をかけて来た。
アタシは『いいわよ。』と答えた。
アタシに声をかけて来た男性は、アタシよりも5つ年下の若いコであった。
アタシに声をかけてきた男性は、お好み焼きをテーブルの上に置いて、アタシの向かい側に座った。
アタシに声をかけて来た男性は、アタシに対して『ねえ、ひとり?カレはいないの?』と聞いたので、アタシは『ひとりよ。』と答えた。
「何度も恋はしたけど、長続きしなかった…新しい恋を始めたいとは想うけど…今は、そんな気にはなれない…」
アタシがそのように言うと、男性は『そうですか。』と残念そうに言うた。
しかし…
「ぼくは、あなたのことが気に入りました。」
男性は、ニコニコした表情でアタシのことが気に入ったと言うた。
うそ…
ウソでしょそんなん…
「ぼくの名前は、けいすけ。君の名前は?」
「アタシは、はるかよ。」
「はるかさんね。」
「うん。」
「ぼくと、恋を始めませんか?」
「えっ?」
けいすけさんがアタシにトッピョウシもないことを言うたので、アタシはおどろいた。
恋を始める…
アタシはけいすけさんに『お友達だったらいいけれどぉ…』と生ぬるい返事をした。
けいすけさんはアタシに『ぼくもそれでいいよ。』と返事を返した。
けいすけさんは、富田新港地区にある今治ヤンマー(農機具メーカー)の工場の従業員さんで、お給料は17万円である。
けいすけさんとの偶然の出会いにアタシは戸惑った。
けれど、今度こそは恋を成就させたいと言う気持ちが強かった。
二人は、早速次の日からお付き合いを始めた。
最初は、軽く食事をしながらおしゃべりから始めた。
出会って4回目のデートの時であった。
7月の最後の金曜日の夜、アタシは両親に『友達の家に泊まる…』とウソついて、けいすけさんに会いに行った。
アタシは、ユニクロエアリズムの黒のVネックのブラキャミの上からチェックのブラウスをはおって、下はサムシングのジーンズを着て、白いシューズをはいて、白のトートバッグを持って出かけた。
ところ変わって、喜田村のダイキ(DCMホールディングス・ホームセンター)の入り口にて…
アタシは、ベンチに座ってけいすけさんを待っていた。
けいすけさんが運転している白のトヨタアクアが到着した。
車から降りたけいすけさんが店に入ったあと、アタシに声をかけた。
「はるか。」
「けいすけさん。」
「お待たせ…行こうか。」
アタシは、けいすけさんの運転する車の助手席に乗った。
その後、車は駐車場を出発した。
車は、産業道路から国道のバイパス~高速道路を走り抜けて、松山インターまで行った。
たどり着いた場所は、松前(まさき)の海岸沿いにある小さなホテルである。
ところ変わって、部屋の中にて…
うす暗いルームライトが灯る部屋に、アタシはいた。
けいすけさんは、シャワーを浴びていた。
けいすけさんを待っているアタシは、ベッドの上に座って、足をバタバタとしていた。
シャワーを浴び終えたけいすけさんは、白のバスローブ姿でアタシのもとへ来た。
「お待たせ。」
けいすけさんは、ベッドのそばにあるミュージックプレーヤーの電源を入れた。
プレーヤーからは、1940年代のジャズが流れていた。
けいすけさんは、テーブルの上に置いてあるアルミの入れ物に入っているシャンパンを一本取り出した。
シャンパンを開けて、ワイングラスに注いだけいすけさんは『のむ?』と言うて、アタシにシャンパンを差し出した。
「ええ…いただくわ。」
アタシとけいすけさんは、シャンパンを一口のんだ。
アタシは、けいすけさんに声をかけた。
「けいすけさん。」
「なあに。」
「けいすけさんは、アタシのどう言うところにほれたの?」
「えっ?どこにほれたって?」
「そうよ…まさかあんた、母親みたいな包容力があると言いたいのでしょ。」
「ピンポーン、その通りだよ。」
けいすけさんは、笑ってアタシの問いに答えた。
アタシは、けいすけさんに言うた。
「けいすけさん。」
「なあに?」
「お母さまはいるの?」
「いないよ。」
「いない?」
「ぼくが、20歳(はたち)になったばかりの頃に、病気で亡くなった…オヤジはジョウハツした…姉は結婚して、遠方に移り住んだ…」
「じゃあ、今はひとりで暮らしているのね。」
「そうだよ。」
けいすけさんは、さみしそうな目でアタシを見つめた。
アタシは、はおっていたブラウスを脱いだ。
ブラウスの下は、黒のVネックのブラキャミを着ていた。
「抱きしめてあげる。」
アタシは、さびしい表情を浮かべているけいすけさんを胸にだきしめた。
「はるか。」
「寂しかったのね…」
アタシは、けいすけさんを胸に抱きしめた。
一夜明けて…
アタシとけいすけさんは、松前から伊予市の市街地の道路を経由して、双海(ふたみ)の海浜公園までドライブした。
場所は、シーサイド双海(海浜公園)にて…
二人は、なにも言わずに海をながめていた。
その時、アタシはけいすけさんに声をかけた。
「けいすけさん。」
「なあに?」
「アタシね…けいすけさんのことほっとけないわ。」
「えっ?」
「好きになっちゃったわ。」
「はるか。」
「けいすけさんは?」
アタシの問いに対して、けいすけさんはこう答えた。
「ぼくも…はるかのことが好きになったよ。」
けいすけさんは、アタシに思いのタケをすべて伝えた。
「夕べ、ぼくは…はるかの胸に抱かれていた時…夢を見たのだ…赤ん坊の時にオフクロに抱かれていた夢を見たよ。」
けいすけさんはアタシを好きになった理由をアタシに伝えた。
そして…
「はるか…結婚しよう…ぼくは、はるかがいないと…ダメなのだ…」
けいすけさんは、アタシにプロポーズをした。
けいすけさんからプロポーズされたアタシは、今度こそは幸せになると決意した。
アタシとけいすけさんの5度目のデートは、いまこく(今治国際ホテル)へ行った。
この日は、ブライダルフェアが催されていた。
二人は、フェアに参加した。
アタシとけいすけさんは、いろんなところを回りながら『こんな衣装が着たいな』とか『こう言う披露宴を挙げたいわね。』などと言いながらフェアを見て回った。
そんな中で、アタシは有名カリスマモデルさんがプロデュースした白のウェディングドレスを試着した。
ウェディングドレス姿のアタシは、けいすけさんの前でほほえみを浮かべながら言うた。
「ジャーン!!どうかしら?」
けいすけさんは、目を細めて喜んだ。
「いいね。お姫さまみたいできれいだよ。」
「じゃあ、これにしようかな?」
アタシとけいすけさんは、楽しみながら挙式披露宴の準備を進めた。
いまこくを出たふたりは、新居探しに行った。
最初のうちは小さくても、借家住まいから始めて、おカネが一定金額に達したら土地を買って、一戸建ての我が家を建てたい…
そんな思いが、二人の中で高まった。
それから二人は、エディオン(家電量販店)へ行って寿家電セットを注文して、ニトリ(家具屋さん)に行って、ブライダル家具の注文をするなど、結婚生活を始める準備を整えた。
アタシとけいすけさんは、9月の大安吉日の土曜日にいまこくで挙式披露宴をとり行うことを決めた。
それから4日後の昼休みのことであった。
ところ変わって、東村の旧国道沿いにある大型ショッピングセンターにて…
アタシは、オムライス屋さんであきのりと会って、ランチを摂った。
ランチを終えたアタシとあきのりは、食後のコーヒーをのみながらお話をした。
アタシは、あきのりにけいすけさんとの結婚が決まったから披露宴の司会のお願いした。
しかし、あきのりはつらそうな声で披露宴の司会を引き受けることができないと言い返した。
「ごめん…結婚披露宴の司会を引き受けることが…できない…」
「引き受けることができないって…どうしてよ?」
「正直に言うて、オレは…心苦しいんだよ…」
「心苦しい?」
「ああ。」
「どうして?」
アタシの問いに対して、あきのりはつらそうな声で答えた。
「オレ…ホンマのことを言うと…もう一度…お前と恋を始めたい…と…思っているんだよ…」
「あきのり。」
この時、あきのりがまだアタシのことを愛していると言うことに気がついた。
あきのりは、アタシに今まで言えなかった思いを必死になって伝えた。
「なあはるか。」
「あきのり。」
「はるかは…どうなのだよ?」
「何が?」
「はるかはまだ、オレのことが好きなのかよ!?」
アタシは『あきのり、何を言っているのよ。』ととまどい気味の声で言うた。
あきのりは『もう一度お前と恋がしたいのだよ!!』と力強く言い返した。
そして、アタシに妻とリコンすることを伝えた。
「オレ…あした…離婚届を出す…」
「リコン?」
「ああ。」
「どうして奧さんと離婚するのよぉ?」
「はるかのことが好きだから妻と離婚する…理由はそれだけ…」
「あきのり…あんたはそれでいいと思っているの!?…お子さんはまだ小さいんでしょ!?…どうするのよこれから先…あきのり!!」
あきのりは、ますますヤッキになった声で言い返した。
「妻と今後のことを話し合った…だから…明日市役所に離婚届を出す…」
アタシは、あきのりにもう一度奥さんと話し合うようにと言うた。
「あきのり、もう一度奥さんと話し合ってよぉ~」
あきのりは、怒った声でアタシに言い返した。
「イヤ!!話し合わない!!」
「なんで拒否するのよ!?」
「オレは…まだはるかを愛してる…はるかじゃないとダメなんだよぉ~…オレは、妻の実家から非難を浴びる覚悟で、お前にコクった!!なあ、はるか…答えろよ!!お前は今でもオレのこと好きなんだろ!!」
あきのりは、ものすごくコーフンした表情でアタシに言うた。
「オレは…本気ではるかのことが好きなんだよ!!」
「あきのり。」
「妻の兄が借金を抱えている…『多額の借金を抱えている兄を助けてほしい。』とオレにせがんできた…妻はふざけている…『たった一人しかいない兄を助けてほしい。』と言うけど、オレはバカ義兄(アニ)の尻ぬぐいをするのはごめんだと言うて、妻とひどい大ゲンカを起こした…妻は大声でおらんで(さけんで)、オニだの血も涙もない人と言うた…妻はふざけている…だからオレは離婚した妻に対して『子供の養育費は1文も払わないから、てめえの自腹で養育費を工面せえ!!』と怒って…妻と子供に…きつい言葉をぶつけたあと…家出した…そして…」
「明日、離婚届を市役所に出すのね。」
「ああ。」
あきのりは、コーヒーをひとのみしてからアタシに言うた。
「オレは、実家の親や兄夫婦や姉夫婦や親せきの人たちにお願いして…親類の人の知人の知人の…そのまた知人の弁護士さんを介して妻の家とゼツエンした…だから明日、離婚届を市役所に出す…これで分かったか?」
「あきのりの事情はよくわかったわ…それよりも、あきのりの妻のお兄さんの借金の問題はどうするの?」
アタシの問いに対して、あきのりはこう答えた。
「妻の兄の借金については、裁判所に破産宣告をして問題を解決させた…義兄(アニ)は過去に暴力事件を起こしてケーサツに逮捕された前科がある…だから、妻の家と絶縁した!!…もういいだろ…これで十分に分かったやろ…」
「あきのり。」
「妻と離婚して…もう一度はるかとやり直したいと思っていた…けれど、はるかに新しい恋人ができたと聞いたから残念だ!!…はるかとサイコンできないのであれば…ひとり身で生きて行く…好きなコも嫁さんも…もういらない…もういいよ!!」
あきのりは、席を立った後アタシに突き放す声で言うた。
「それともう一つ…オレ、きょう…会社に辞表を出した!!」
あきのりは、アタシに会社をやめたことを伝えた。
「どうして?」
「お前の新しい恋人が働いている場所の近くの会社で働いている…けれど、お前の新しい恋人が気に入らないからやめた…ただそれだけや!!」
「あきのり!!そんな小さなことで会社やめたら、この先どうするのよ!?」
アタシがそのように言うと、あきのりはアタシに激しい怒りをぶつけた。
「お前なあ、相手がかわいそうだからと言う理由で同情的になっていることに気がつけよ!!」
「あきのり!!けいすけさんは、お母さんを亡くして、お父さんもジョウハツして…」
「そこが同情的になっていることに気がつけよボケ!!」
「あきのり!!」
「もういいよ!!」
あきのりはアタシに食事代の伝票を突きつけたあと、突き放す声で言うた。
「ここの食事代、お前が払っておけ!!オレの気持ちを逆なでにした仕返しだ…フンッ!!」
あきのりは、オムライス屋さんを出たあとどこかへ行った。
何なのよあきのりは…
けいすけさんとアタシのことをボロクソに言うなんてあんまりだわ…
アタシは、むくれた表情であきのりの後ろ姿を見つめた。
それからアタシは、印刷会社に帰って午後の仕事をしていた。
しかし、あきのりからどぎつい言葉をぶつけられたことが原因で仕事に集中できんかった。
何よ、あきのりは…
けいすけさんのどこが気に入らないのよ…
アタシとけいすけさんは、同情的だとか、傷をなめあうとか…
そんなだらけた関係じゃないのに…
なんなのよ一体もう…
人の気持ちを逆なでにしているのは、あきのりの方でしょ…
「羽島くん。」
課長が呼んでいる…
ああ…
「羽島くん。」
課長の大声ではっと気がついたアタシは『はい。』と返事した。
「上司が呼んでいるのだから、すぐにこっちへ来なさい。」
「すみません。」
アタシは、課長の席にあわてて行った。
「はい、何でしょうか?」
「羽島くん、今朝私が君に頼んでいたF広告代理店に電話して、例の返事をもらえと頼んでいたけど、電話したのか?」
課長からそのように言われたアタシは、顔が真っ青になった。
ああ!!忘れていたわ!!
「なにぃ、返事をもらっていない!?」
「すみません!!他の用事で手がいっぱいになっていまして…」
「何をやっているのだね全くもう!!もういい、私が電話する!!…ったくも…(ブツブツ)」
課長は、ブツブツ言いながら受話器をあげて電話をかけた。
あーあ…
また、凡ミスやらかしたわ…
時は流れて…
アタシは、9月にけいすけさんと挙式披露宴をあげるための打ち合わせと結婚生活の準備のために、休みごとにけいすけさんと会っていた。
その一方で、あきのりはアタシをさけるようになった。
挙式披露宴の10日前のことであった。
アタシは、けいすけさんを家に連れて来た。
アタシは、母にけいすけさんを紹介した。
しかし、母はさみしそうな表情を浮かべた。
その日の夜、父は『明日の朝は早いから寝る…』と言うて9時ちょっと過ぎに寝た。
しばらくして、母はアタシに『一緒にお茶のまない?』」と言うた。
このあと、アタシは母とお茶をのみながら話をした。
アタシは、けいすけさんを紹介した時にどうしてさみしそうな顔をしたのかを母にたずねた。
母は、アタシの問いに対してこう答えた。
「ちょっと疲れていただけよ。」
「そうなのだ…かあさん、アタシ…好きだと言える人が見つかったのよ…よろこんでほしかったな。」
母は、ほほえみを浮かべて『そうね。』と答えた。
しかし…
母の表情が急に険しい表情に変わった。
「はるか。」
「なあに?」
「もう一度あんたに聞くけれど…本当にけいすけさんと結婚するの?」
母は、怒った声でアタシに言うた。
「あんたまさか、同情的になって、けいすけさんを選んでないでしょうね!?」
「違うわよ。」
「だったら、いいけど…」
母は、アタシにこう言うたあとお茶をのんだ。
アタシは母に、けいすけさんをどのように思っているのかとたずねた。
「ねえかあさん。」
「なあに?」
「かあさんの視点からみて、けいすけさんはどんな感じの人だった?」
「そうね。」
母は、ひとかんかく空けてからアタシに言うた。
「けいすけさんは、お母さまを病気で亡くされて、お父さまも家出して行方不明だし…お姉さまは遠方で自立して暮らしている…家族がバラバラになって、さみしい思いをしている…優しいし、はるかとの結婚を真剣に考えている気持ちがあるのはよく分かるよ。」
母は、一定の理解はした。
しかし、不安げな声でアタシに言うた。
言いました。
「問題は、そこから先のことよ。」
「そこから先?」
「そうよ…その前に、あんたに大事な話をしておくわ。」
「大事な話って…」
「いいから聞きなさい!!」
母は、アタシにあつかましい声で言うた。
「夕方ごろに、近所の奥さまから聞いた話だけど、あきのりくん…きょう、市役所に離婚届を出したわよ!!」
それを聞いたアタシは、顔が真っ青になった。
「えー、あきのりが離婚届を出した!?」
「(怒った声で)そうよ!!」
母は、ものすごく怒った声でアタシに言うた。
「離婚した理由は『はるかをまだ愛しているから…』よ…」
「そんな…」
「あきのりくんは、あんたのために大事な家族をすてたのよ!!…あんたのために奥さん方の家と絶縁したのよ!!」
ウソよ…
そんなのウソよ…
アタシは、なんども繰りかえしてつぶやいた。
さらに母は、アタシに衝撃的な言葉を発した。
「その上に、あきのりくんはつとめていた会社に辞表を出してやめたわよ…やめた理由は、けいすけさんがはぐいたらしいからよ!!」
それを聞いたアタシは、脳天にきつい一撃を喰らった。
「あきのりが、けいすけさんをうらんでいた…」
「あんたのケーソツな態度が原因で、あきのりくんの人生がズタズタに壊れたのよ!!」
「そんな…」
母からどぎつい言葉をぶつけられたアタシは、どうしようもない気持ちにさいなまされた。
このあと、アタシと母はひどい大ゲンカを起こした。
その後、アタシは背中を向けて部屋に閉じこもった。
このあと、目を覚ました父がパジャマ姿でリビングにやって来た。
「こんな夜遅いのに、大声でおらぶ(さけぶ)な。」
「アタシは、はるかのことを思って怒ったのよ!!」
「そりゃそうだけど…」
父は、冷蔵庫から紙パックのらくれん牛乳を取り出して、コップに注ぎながら言うた。
「もう少し、はるかのことを信じてあげたらどうだ?」
「はるかのことを信じろって。」
「そうだよ。」
母は、心配げな声で父に言うた。
「それじゃあなた。」
「何だ?」
「はるかに、こんなことを話したら…どう思うか…」
「何だ?もしかして、けいすけさんがフタマタかけていたとでも言うのか?」
「もしもの話よ。」
「もしもの話?」
「はるかがけいすけさんと出会ったのは、フジグランでナンパされたことよ…そこが心配なのよ。」
「心配?」
「娘のことを思って言うているのよ。」
「かあさん、どうしてけいすけさんを疑うのかな?」
「うたがいたくもなるわよ…はるかには悪いけど、結婚あきらめるように言うておくわ。」
「それじゃ、どうするんだ?」
「あなた。」
「なんぞぉ~」
「(はるかの兄)の海外出張は、いつまでつづくのよ!?」
「なんでそんなことを聞くんぞぉ~?」
「(はるかの兄)夫婦の家族をこっちへ移るように頼んでよ!!」
「おい!!」
「あなた!!(はるかの兄)の会社に電話して、海外出張をやめてくれとジキソしてよ!!」
母がワケの分からないことを言うたので、父はひどくコンワクした。
結局、周囲の理解が得られないまま挙式披露宴を挙げることになった。
そして、挙式披露宴の当日を迎えた。
いまこく(今治国際ホテル)の一階のエントランスのカフェテリアでは、けいすけさんとアタシの友人知人たちが集まっていた。
挙式披露宴は、友人知人たち40人が出席した。
アタシは、新婦の控え室で挙式が始まるのを待っていた。
けいすけさんは、ニコニコ顔でみなさまとおしゃべりをしている。
アタシは、けいすけさんを呼びに行った。
その時であった。
一階のエントランスのカフェテリアで、男性の怒鳴り声が聞こえた。
怒鳴り声のヌシは、達郎さんのお兄さまであった。
大変だ…
達郎さんのお兄さん夫婦が怒鳴りこんで来た…
アタシが駆けつけた時であった。
達郎さんのお兄さんが、けいすけさんの胸ぐらをつかんで、こぶしをふりあげてイカクした。
「けいすけ!!」
「やめてください。」
「甘ったれるなクソセガレ!!」
(ガツーン!!)
達郎さんのお兄さまは、けいすけさんの鼻の頭をグーで殴りつけた。
その後、けいすけさんは達郎さんのお兄さまからボコボコにどつき回された。
その場面を見てしまったアタシは、急いで着替えて荷造りをした。
避難準備を終えた後、荷物を持って裏口から逃げだした。
アタシは、黒のユニクロのエアリズムVネックのブラキャミの上から白のブラウスをはおって、下はネイビーのレギンスを着て、白いシューズをはいて、白のトートバッグを持って今治駅へ逃げた。
アタシは、JR今治駅であきのりと出会った。
「あきのり。」
「はるか。」
「ちょうどよかった…お前に大事な話がある…」
このあと、アタシとあきのりはバス乗り場へ向かった。
その後、松山市駅行きの特急バスに乗り込んだ。
バスは、国道317号線を通って松山方面へ向かった。
その頃、いまこくでは…
達郎さんの兄がけいすけさんをどつきまわしていた。
「コラ!!オドレはなに考えとんぞ!!」
「やめてくれぇ~」
「オドレのせいで、何人の女性を傷つけたのか計算しろ!!」
けいすけさんは、泣きながらあやまっていた。
しかし、達郎さんの兄からボコボコにいてどつきまわされてボロボロに傷ついた。
あとになって、けいすけさんは達郎さんのお兄さま夫婦のセガレだったことが判明した。
そして、けいすけさんが言うた言葉はいつわりだったことが判明した。
その上に、複数の女と深刻なトラブルを起こしたことが判明した。
アタシは、けいすけさんにだまされた…
水ヶ峠のトンネルを越えて、松山市に入った頃にそのことに気がついた。
今回の一件で、アタシとけいすけさんの挙式披露宴はパーになった。
その頃、アタシはあきのりと一緒に伊予鉄松山市駅のバス乗り場に着いた。
その時、アタシのスマホが鳴った。
母から電話であったけど、出なかった。
あきのりは、アタシに言うた。
「電車に乗って、どこかへ行こう。」
(ピーッ、ゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトン…)
アタシとあきのりは、伊予鉄郡中線の電車に乗って、伊予市方面へ向かった。
松前のエミフル(フジグラン)へ行く若いコたちが、たくさん電車に乗っていた。
古泉駅に電車が着いた時、エミフルへ向かうお客様がいっせいに電車から降りた。
アタシとあきのりは、終点の郡中港駅まで電車に乗った。
終点の郡中港駅に電車が着いた。
電車を降りたふたりは、改札口を通って外へ出た。
ふたりは、駅から歩いて五色姫海浜公園へ行った。
(ザザーン、ザザーン、ザザーン…)
二人は、ベンチに座って海をながめながらお話をした。
この時、あきのりはアタシに大事な話をした。
「オレ、今夜のオレンジフェリーに乗って大阪へ行く…」
「大阪へ行くの?」
「ああ…大阪についたら、電車に乗って名古屋へ行く…」
「名古屋に身よりはいるの?」
「ああ…兄夫婦が名古屋で暮らしている…兄夫婦のコネで、共立(銀行)の支店に再就職することが決まった…兄嫁の同級生が支店長を務めている…その関係で再就職することにした…」
「そう…」
「妻と離婚したあとのことについては、支店長さんの知人の弁護士さんにおまかせすることにした…」
「そう…」
「話しはそれだけ…」
しばらくして、アタシはあきのりにことのテンマツを話した。
「アタシ…けいすけさんにだまされた…」
「やっぱり、だまされたのか…」
「うん。」
アタシは、あきのりにショウサイを話した。
「けいすけさんは、達郎さんの兄夫婦のセガレだった…けいすけさん…女がらみのトラブルをたくさん抱えていたみたいよ…」
「そんな…」
「アタシ、幻滅したわ。」
アタシは、頭を抱えて落ち込んだ。
あきのりは、アタシにこう言うた。
「だから言うただろ…けいすけの時も、潤一の時も…結局はるかは相手に対して同情的になったことが原因で失敗した…自分の感情だけで押し通したから、失敗したんだよ!!」
あきのりに怒鳴られたアタシは、大きくため息をつきながら言うた。
「アタシ…どこのどこまでアホかしら…」
「はるか。」
この時、波は少し激しい音を立てて荒れていた。
あきのりは、立ちあがったあとアタシに別れをつげた。
「はるか…さよなら…オレ、出発するよ…お前は、ちがう男を選べよ…それじゃ…」
あきのりは、アタシに別れをつげたあとそのまま旅立った。
アタシは、だまってあきのりを見送るしかなかった。
その一方で、けいすけさんは異性とのトラブルを起こしたことや暴力団関係者の男たちとトラブっていたことがあからさまになった。
けいすけさんは、サギ罪などでケーサツにしょっぴかれた。
アタシは、母があの時言った言葉の意味を思い出した。
あの時、自分の都合だけで結婚したいと言うて、片意地を張っていた…
あきのり、ごめんね…
そして…
さようなら…
それから3年の歳月が流れた。
32歳のアタシは、職場の上司のすすめで上司の知人の家のご子息とお見合いして結婚した。
この時、アタシの実家は兄夫婦の家族が同居していたので、居場所はなかった。
アタシのダンナは、トーダイ卒の県職員の男性(48歳)である。
アタシは、ダンナと義母の3人で暮らしていた。
家の広間にて…
この時、3人で晩ごはんを食べていた。
しかし、そこでもめ事が起こった。
義母がアタシにみそ汁のダシの取り方がちがうと言いがかりをつけた。
ダンナは『ママが作ったみそ汁じゃないとイヤだ…』とアタシに言うた。
「ふざけんな!!」
(パチーン!!)
アタシは、ダンナの顔に往復ビンタを喰らわせた。
「ワーン!!ママ!!」
ダンナは、ビービービービービービー泣き叫んだ。
このあと、アタシと義母はひどい大ゲンカを起こした。
その翌日のことであった。
ところ変わって、アタシの実家にて…
実家の広間に、両親と兄夫婦の家族(夫婦とメイゴ(8歳)の3人)が朝ごはんを食べていた。
その時であった。
(ピンポーン…)
玄関の呼び鈴が鳴ったので、両親が応対に出た。
玄関にて…
アタシは、白のブラウスとデニムブルーのジーンズ姿で、右手にサックスバーの大きめのトランクと赤茶色のバックがついているキャリーを持っていた。
母は、おどろいた声で言うた。
「はるか…」
アタシは、ほほえみながら言うた。
「おとーさん、おかーさん…昨日、市役所に離婚届を出したわ…マザコンのダンナをすてて、こっちへもんてきたけん…あとのこと…よろしくね…」
アタシは、ヘーゼンとした表情で家に上がった。
父は、その場に座り込んでメソメソ泣いた。
「またはるかが離婚した…」
それから数日後のことであった。
アタシは、もといたハラプレックス(印刷会社)に復職した。
この時、アタシは新しい恋を始めたいと思わなくなった。
周囲の重機さんたちのオノロケ話を聞いても、アタシは『あっそう…』と言うてさえぎった。
今は、厄年だから…
新しい恋を始めることはやめておこう…
…と言うよりも、ひとり身の方が気楽でいいからカレなんかいらない…
【おしまい】