【今治発地域ドラマ】恋を始めてもいいですか

「ねえ、あきのり。」
「何だよ。」

時は、バレンタインの日の昼休みのことであった。

アタシは、幼稚園の時から幼なじみの口総(くちすぼ)あきのりと一緒に、東村の旧国道沿いにある大型ショッピングセンターの中にあるマクドナルドにいた。

アタシとあきのりは、500円のビッグマフィンのセットを頼んだ。

ビッグマフィンのセットを受け取った後、アタシとあきのりは店の外へ出た。

今日は天気がいいので、外のベンチでランチを摂った。

その時、アタシはあきのりに頼みごとをした。

6月に湯ノ浦のリゾートホテルで、大学の時から付き合っていたカレシと挙式披露宴を挙げる。

アタシは、あきのりに結婚披露宴の司会をしてほしいとお願いした。

「結婚披露宴の司会?」
「うん。」
「そうだな。」

アタシは、もうしわけない表情で両手をあわせて『ねえ、お願い…この通りだから…』とあきのりにお願いした。

あきのりは、やや気だるい声で『はるかのお願いだったら仕方ないなァ…』と言うて引き受けた。

アタシは、あきのりに『ありがとう…助かったわ。』とうれしい表情で言うた。

あきのりは、アタシにこう言うた。

「それで…いつ挙式披露宴を挙げるの?」
「んーとね…6月の第2日曜日、大安吉日よ。」
「そうなんだ。」

アタシは、腕時計をちらっと見てから『あっ、会社に戻らないと…』と言うてからあきのりに会社に戻ることを伝えた。

「今日は話ができてよかったわ…ありがとう…披露宴当日は司会をよろしくたのむわね…バイバイ。」

アタシはあきのりに『また会おうね…』と言った後、駆け足で職場へ戻った。

アタシの名前は羽島はるか26歳。衣干にある印刷会社のOLです。

話は変わって、夕方5時頃であった。

仕事を終えたアタシは、タイムカードに退勤時刻を記録した後、カレが待っている東村の旧国道沿いにある大型ショッピングセンターの近くにあるファミレスへ向かった。

夕方6時に、婚約者の宗方潤一さんと待ち合わせで、夕食をとりながら6月の挙式披露宴の打ち合わせをする予定となっていた。

「潤一さーん、お待たせ。」
「はるか、待っていたよ。」
「ねえ、中に入ろうよ。」
「ああ。」

ファミレスの中にて…

アタシと潤一さんは、580円のハンバーグセットを注文した。

まずは、二人で夕食を摂った。

夕食のあと、食後のブレンドコーヒーをのみながら、挙式披露宴の打ち合わせをした。

「はるか。」
「なあに?」
「今日、新居(いえ)を買ったよ。」
「新居(いえ)を買った?」
「ああ…5LDKの分譲マンションだけど…今治駅のすぐ近くにある分譲マンションだよ。パンフみてみる?」

潤一さんは、アタシに新居である分譲マンションの部屋のパンフを見せた。

「素敵ね…お金は大丈夫なの?」
「頭金300万を払ったから、あとは月々14万円ずつ分割払いで行くよ。」
「がんばらないとね。」
「話変わるけど…6月に挙げる挙式披露宴のことで話があるけど…」
「いけない、忘れていたわ。」

このあと、アタシと潤一さんの挙式披露宴の打ち合わせに入った。

挙式披露宴は、アタシと潤一さんの友人知人と職場の関係者のみなさんだけで執り行う予定であった。

アタシと潤一さんは『挙式披露宴はこんなのがいいね。』とか『海外ウェディングはこんなのがいいね。』などと言いながら、楽しく打ち合わせを進めた。

ところ変わって、乃万(のま)の国道バイパス沿いにある造船関係の冷熱会社のオフィスにて…

「こんな書類の書き方はなんや!?もう一回書き直せ!!」
「すみません。」

造船関係の冷熱会社の営業一課のオフィスで、営業一課の課長さんが部下の人を怒鳴りつけていた。

営業一課の課長さんは、アタシとお見合いをする熊代達郎さんである。

達郎さんは、41歳で今も独身である。

「課長、宮本さんは2ヶ月前に結婚したばかりで、気持ちが落ち着いていないのです…あまり強く言わない方が…」
「うるさい!!いちいち口出しするな!!」

達郎さんは、ますます怒りっぽくなった。

周囲の従業員さんたちのおめでたが続いていたので、達郎さんは心の中でさみしさを募らせていた。

夕方5時過ぎに仕事を終えた達郎さんは、タイムカードを押して会社を出たあと、歩いて延喜(えんぎ)のバス停まで行った。

達郎さんは、延喜のバス停から今治市内に向かうバスに乗って、今治バスセンターへ向かった。

バスを降りた後、歩いて住まいである賃貸マンションへ向かう。

達郎さんは、途中のマルナカ(スーパー)に行って、夕食の幕の内弁当とペットボトルのウーロン茶をこうた。

「ただいま。」

ところ変わって、通町(とおりまち)にある賃貸マンションにて…

部屋に帰った達郎さんは、マルナカで買ったお弁当で夕食を摂る。

「さみしい…」

部署のスタッフさんたちの恋愛や結婚の話を聞くたびに、達郎さんはため息をつきながら『さみしい』とぼやいた。

4月の第2金曜日のことであった。

アタシは、昼休みに東村の旧国道沿いにある大型ショッピングセンターの中にあるマクドへ行って、潤一さんと挙式披露宴の打ち合わせをしていた。

6月の第2日曜日の本番に向けて、準備を着々と進めた。

さて、その頃であった。

乃万の造船関係の冷熱会社にいる達郎さんは、コンビニで買った幕の内弁当でランチを摂っていた。

その時、営業部の部長さんが達郎さんのもとへやってきた。

営業部の部長さんは、もうしわけないと言う表情で達郎さんに言うた。

「ああ熊代くん、ちょっといいかな?」
「あっ、部長。」
「今度の日曜日に、総務の渡部くんの挙式披露宴がいまこく(今治国際ホテル)であるけど…その時にスピーチをお願いできるかな?」
「はっ、スピーチですか?」
「実は、その日にY商事の社長さんからゴルフに誘われたんだよ…急に急な予定変更で出席できなくなったのだよ…原稿は渡しておくから…お願いできるかな?」
「かしこまりました。」
「頼むよ。」

部長さんの代理で結婚披露宴のスピーチを急に頼まれた達郎さんは、ものすごく困った表情を浮かべた。

急に結婚披露宴のスピーチを頼まれても…

困るよ…

そして、披露宴の日がやって来た。

急きょ、結婚披露宴に出席することになった達郎さんは、いまこく(今治国際ホテル)に行った。

達郎さんは、ものすごく困った表情を浮かべていた。

洋式トイレの個室で、達郎さんはスピーチの原稿を何度も読み返した。

しかし、極度にあがっていたのでものすごく不安定な状態にあった。

そして、結婚披露宴が始まった。

達郎さんは、新郎代表のスピーチをするために、用意を始めた。

「それでは、新郎代表のスピーチをお願いします。」

司会者からの紹介のあと、達郎さんはマイクの前に出た。

白のタキシード姿の達郎さんは、ものすごくあがっていた。

「えー…本日はお日柄もよろしく…えー…。」

どうしよう…

言葉が出ない…

達郎さんは、ものすごく困った表情を浮かべた。

「新郎の…えー…」

達郎さんは、原稿どおりにスピーチを読もうとした。

しかし、うまく伝えることができなかったので、ひと言『おめでとうございます。』と言うて席に戻った。

あーあ、しんどかった…

その頃アタシは、潤一さんと一緒に、湯ノ浦のリゾートホテルにいた。

この日は、衣装合わせなど…挙式披露宴を挙げるための準備で来ていた。

ブライダルサロンにて…

「ジャーン!!どうかしら!?」

アタシは、カリスマモデルさんがプロデュースしたウェディングドレスを着用していた。

潤一さんは目を細めて喜んだ。

「どう、似合う?」
「うん、すごくきれいだよ。」
「わあー、うれしいわ…ねえ、他のドレスも着てみたいけど、いい?」
「ああ、いいよ。」
「ねえ、潤一さんも一緒に、衣装を試着しようよ。」
「そうだね。」

アタシと潤一さんは、二人で楽しく衣装合わせをしていた。

次の日であった。

乃万の造船関係の冷熱会社にて…

「おはようございます。」

達郎さんは、出勤して早々に部長さんに呼び出された。

「熊代課長、部長がお呼びでございます。」

達郎さんは、同じ部署のOLさんから『部長がお呼びです…』と言われたので、部長の元へ行った。

結婚披露宴の席でテキトーにスピーチしたので、おらばれる(おこられる)かもしれないと達郎さんは思った。

達郎さんは、部長さんからこんなことを言われた。

「私の代わりにスピーチを引き受けてくれてありがとう。」
「ありがとうございました。」

部長さんから『ご苦労様』と言われた達郎さんは、泣き笑いの表情を浮かべた。

夕方5時頃のことであった。

達郎さんは、タイムカードに退勤時刻を記録した後、会社を出ようとした。

この時、達郎さんは年配の男性から声をかけられた。

「熊代くん。」

年輩の男性は、アタシのおじで、達郎さんの昔の上司の春義(はるよし)おじさんである。

春義おじさんは、アタシの母の兄にあたる人である。

「専務。」
「おお、熊代くんちょうどよかった…一緒に晩めしでも食いにゆこや。」
「あっ、はい…」

達郎さんは、アタシのおじと一緒に共栄町の料亭へ行った。

料亭の個室にて…

テーブルの上に置いている割烹弁当のお重のふたは、まだ閉じたままであった。

「まあ、のみたまえ。」
「はっ。」

おじは、達郎さんにビールをついだ。

ビールを軽く一杯のんだあと、おじは達郎さんにあつかましい声で言うた。

「ところで熊代くん。」
「はい。」
「君はいつになったら結婚をするのかね。」
「えっ?結婚?」
「40過ぎの男が独り身を通すことは、好ましくないとはおもわんのか!?」

達郎さんは、おじにこう言い返した。

「お言葉を返すようですが、この年で結婚したいと言うても、条件の悪いお相手しかいないんですよ…」

達郎さんに言い返されたおじさまは、ややあつかましい声で達郎さんに言い返した。

「何を言うのだね君は…自分探しばかりしていたから、嫁さんがきてくれんのや!!そこに気がつかないのかね!?」
「そうでしょうか?」

達郎さんは、ぽつりと言うた。

まだこの時点では、おじさまは達郎さんとアタシのお見合いの話を出さなかった。

4月の第4月曜日のことであった。

アタシは、潤一さんの挙式披露宴まで2ヶ月を切ってなにかとバタバタとしていた。

その時に、おじがアタシのお見合い話を急に持って来た。

夕食時に、おじが織田ヶ浜(おだがはま)の近くにあるアタシの家にやって来た。

その時に、アタシと達郎さんのお見合い話が入った。

おじから急にエンダンを持ち込まれたアタシは、思わずすっとんきょうな声をあげた。

「お見合い…ちょっと、アタシ聞いてないわよ!!」

母は、アタシにあつかましい声でアタシに言い返した。

「はるか!!お父さんとお母さんは、はるかがいつになったら結婚するのかと心配になっているのよ…はるかがなんにも言わんけん、おじさんに頼んで、お見合いの世話をお願いしたのよ!!」
「どうしていらんことするのよ!?」
「はるか!!なんてこと言うのよ!?おじさんは厚意でお見合いを持ってきたのよ!!…おじさんははるかに『もし近くにいいお相手がいなかったら、いかがですか?』と言うているのよ!!」

おじは、生ぬるい声でアタシに言うた。

「はるかちゃん、おじさんは近くにいいお相手がいないのであれば、お世話してあげるといよんよ…おとーさんとおかーさんが『いつになったらはるかちゃんが結婚に向くのか…』と心配しているんだよ…」

アタシは、平手打ちでテーブルをバーンとたたいたあと『ちょっとおじさん!!』と怒鳴った。

「どうしたのだね。」
「どうしたのだねじゃないわよ!!なんで断りもなくお見合い入れたのよ!?」
「ワシは、厚意でお見合いを入れたんだよ。」
「アタシは、アタシのやり方で恋をして結婚するのよ!!」
「じゃあ、いつになったから結婚するのだね。」
「そんなんおじさんにはカンケーないわよ!!」

アタシは、おじに対してより激しい怒りに震えた。

潤一さんとの挙式披露宴が決まって、準備がすごく忙しいのに…

いらんことせんといて…

次の日の朝のことであった。

ところ変わって、乃万の造船関係の冷熱会社にて…

達郎さんは、おじに呼ばれて専務室に行った。

「まあ、座りたまえ。」
「はい。」
「君に、大切なお話がある。」
「大切なお話?」

おじは、達郎さんにお見合い写真を差し出した。

達郎さんは、お見合い写真を開いた。

お写真は、アタシが成人式の時のふりそで姿であった。

「あと、スナップ写真も2~3枚あるけれど…」

アタシのおじは、達郎さんにアタシのスナップ写真も一緒に差し出した。

スナップ写真は、アタシが大学生の時に瑞穂スキー場(島根県)へ行った時のスキーウェアー姿と秋に四国カルストに行った時のハイキングウェア姿の写真である。(もちろん、アタシひとりで写っている写真だけどね…)

おじは、達郎さんに得意げな声で話した。

「わしのめいでな、いい子なんだよ…大学卒業で、印刷会社勤務でねぇ…」
「専務、これは私に専務のメイゴとお見合いせいと言うことですか?」
「ピンポーン!そうだよ。」

おじは、ニコニコしながら達郎さんに言うた。

「君が喜ぶと思って、話を持って来たのだよ。」

達郎さんは、困った声でおじに言い返した。

「専務、お言葉を返しますが…」
「何だね。」
「急にお見合いと言われても、困ります。」
「何を言っているのだね…困るのは君自身だよ…私は、厚意で『いかがですか?』と言うているのだよ。」
「そうは言うても。」
「お見合い日取りは決まっているのだよ…結婚したいかどうかについては、一度会ってから判断したらどうかね…」

おじからあつかましく言われた達郎さんは、しぶしぶアタシとお見合いをするハメになった。
ところ変わって、市内松本町にある達郎さんの実家にて…

達郎さんの実家に、アタシのおじが来ていた。

おじは、アタシと達郎さんのお見合いの日が決まったことを達郎さんの両親と兄夫婦に伝えた。

時は、夕食が終わって一息ついた時だった。

おじからお見合いの日時を伝えたが、達郎さんの実家の家族はものすごくあつかましい声でおじに言い返した。

「全く非常識だわ!!」
「ああ、その通りだ!!」

達郎さんのお母さまは、より激しい怒りを込めて怒った。

「私たちの都合も聞かずに勝手にお見合いのセッティングをするなんて、どーかしてるわよ!!」

達郎さんのお父さまは、ものすごくあつかましい声で言うた。

「その日は、友人たちからゴルフに誘われているのだよ。」

兄夫婦も、達郎さんのお見合いには行けないと怒った。

「オレもダメだ。その日は休日出勤が入った!!」
「アタシも、テニスの例会だからダメなのよ!!」

おじは、ものすごく困った声で言うた。

「それはいくらなんでもあんまりですよ!!」

おじの言葉に対して、達郎さんのお母さまはおじに怒鳴り返した。

「うちらは、達郎が結婚することに大反対です!!」
「大反対って?」
「敏郎の結婚の時、ものすごく大変な想いをしたのよ!!」
「かあさん。」
「あんたあの時、なんでおとーさんとおかーさんの言うことを聞かなかったのよ!?結婚相手は神さまが選んでくれるからじっと待っていなさいと言うたのに、どうして勝手に動いたのよ!?」

達郎さんのお母さまとお兄さまが、怒鳴り声をあげた。

おじは、ものすごく困った表情で言うた。

「あなたたち家族は、どうして頭ごなしに達郎さんの結婚に大反対するのですか!?どうして家族みんなが協力しないのですか!?」

達郎さんのお父さまは『なんやと!!家族が協力しろだと!!わしらに命令しよんか!!」とおじを怒鳴りつけた。

怒鳴られたおじは、あきれた表情を浮かべた。

おとうさまは、おじに対して『家族たちの自己都合』を理由に、達郎さんの結婚は無理だと言うた。

それを聞いたおじは『あきれてものが言えん…』と言うてため息ついた。

おじは、周囲から反発を受けながらもお見合いのセッティングを強行した。

時は、昭和の日の昼前のことであった。

場所は、いまこく(今治国際ホテル)の一階のエントランスにて…

ホテルの玄関前に、ホテルバスが停まっていた。

この日は、アタシのおじの家の息子さん(アタシのいとこ)の挙式披露宴が挙行されるので、アタシは両親と一緒に結婚披露宴に出席した。

午前中、大三島の多々羅しまなみ公園にある白い時計台のある広場で結婚式があった。

アタシは、みなさまと一緒に結婚式に立ち会った。

アタシのいとこと花嫁さんは、二人が勤務している会社内で行われたソフトボール大会で出会って、1年間の交際を経て結婚にたどり着いた。

このあと、新婦さんのおじ夫婦のバイシャク人を務める結婚披露宴がいまこくで行われる。

エントランスにあるカフェテリアにて…

カフェテリアでは、ご親族のみなさまと新郎新婦の共通の友人知人たちがたくさん集まっていた。

出席者のみなさまは、お茶をのみながらたのしくおしゃべりをしている。

アタシと達郎さんのお見合いは、エントランスのカフェテリアで行われる予定である。

しばらくして、達郎さんがひとりでエントランスにやって来た。

おじ夫婦は、ものすごく困った表情を浮かべながらぼやいた。

達郎さんの家族たちは、どうして達郎さんの結婚問題に向き合おうとしないのか…

困り果てたおばは、ケータイを手にして達郎さんの両親と兄夫婦のもとに電話をかけた。

しかし、電話はつながらなかった。

「あなた、どうしましょう?」
「ったくもー…達郎さんの実家の家族はどこのどこまでムカンシンをとおす気だ!!」

アタシのおじは、ものすごくイラついた。

結局、アタシのおじ夫婦が達郎さんの実家の家族の代役を務めることにした。

お見合いは、一階の洋食レストランで行われた。

クリーム色のワンピース姿のアタシとダークブラックのスーツに白のネクタイの達郎さんは、コチコチの状態であった。

雰囲気がものすごくよどんでいる中で、おばはやさしい声で達郎さんに呼びかけた。

「達郎さん…何かお話でもなされたら?」

アタシのおじは、達郎さんにお話をするようにとうながした。

「あっ、あのー…はるかさん。」

達郎さんは、あがり気味の声でアタシに言うた。

「はい?」

アタシは、キョトンとした表情で受け答えをした。

「ご趣味は…何でしょうか?」

達郎さんからの問いに対して、アタシは『読書です。』と答えた。

「読書…ですか。」
「はい。」
「どんな本を読まれているのですか?」
「恋愛小説を読んでいます。」
「そうですか。」

話は、そこで止まった。

再びお見合いの席によどんだ空気がただよった。

アタシと達郎さんは、ものすごく気まずい表情を浮かべた。

アタシは、ひっきりなしに腕時計をながめていた。

ひっきりなしに腕時計をながめているアタシをみた母は、心配げな声でアタシに言うた。

「どうしたのよ?」
「ごめんなさい。ちょっと…」

アタシは母に『気分が悪い。』と言うてから席を外して外へ出た。

アタシは、みんなにうそをついていまこくから逃げ出した。

いまこくから逃げ出したアタシは、潤一さんの元へ走って行った。

ところ変わって、東門町のフジグランにて…

アタシは、潤一さんとセンターコートで待ち合わせの約束をしていたが、危うくすっぽかしそうになった。

「はるか。」
「ごめーん、どうしても抜け出せない用事があったのよ…ねえ、許して。」
「分かったよ…じゃあ、一緒に行こうか。」
「うん。」

アタシと潤一さんは、うでを組んでミスドへ行った。

一方、達郎さんもいまこくから逃げ出した。

「はあー、しんどかったな…」

達郎さんは、しんどそうな表情でアーケード街をトボトボと歩いた。

「専務も強引すぎるよ…やっぱり40過ぎの未婚の男に結婚なんかネコに小判だ…お見合いはおことわりしよう…」

達郎さんは、桟橋へ向かって歩き続けた。

さて、それからアタシはゴールデンウィークの期間中は潤一さんと会って、挙式披露宴の打ち合わせをした。

時は、子どもの日の午後であった。

ところ変わって、湯ノ浦のリゾートホテルのカフェテリアにて…

アタシと潤一さんは、お茶をのみながらお話をしていた。

「ところではるか?」
「なあに?」
「はるかの家族には、挙式のことを伝えているのか?」
「ううん?」
「そうか。」
「潤一さんは?」
「ぼくも…まだだよ…」
「そう…アタシたち、これでいいのかしら?」
「何を言い出すのだよ突然…ぼくとはるかで決めた挙式披露宴じゃないか。」
「そうよね。」

結局、アタシは両親やおじさんに言い出せないまま、6月の第2日曜日に潤一さんとの挙式披露宴を予定通りに挙行することにした。

その一方で、達郎さんはゴールデンウィーク期間中はひとりで過ごしていた。

実家の家族たちの猛反対を押し切ってお見合いをした達郎さんは『どのような形でお見合いを断ればカドがたたずにすむのか…』と考えたが、答えが見つからずにコンワクした。
そしてゴールデンウィークが明けた。

アタシたちは、職場と家庭の往復の暮らしに戻った。

ところ変わって、衣干にある印刷会社の事務所にて…

事務の制服姿のアタシは、伝票処理やパソコン入力などのお仕事をしていた。

潤一さんと挙式披露宴を挙げて、そのまま結婚生活を送るか…

それとも、おじふうふの言うことを聞いて達郎さんとお見合いをして結婚生活を送るべきか…

アタシは、ものすごく苦しい思いにかられた。

昼休みのことであった。

ところ変わって、東村の旧国道沿いにある大型ショッピングセンター内にあるオムライス屋にて…

アタシは、あきのりと会って日替わり定食を頼んでランチを摂った。

ランチを摂った後、食後のコーヒーをのみながらお話をした。

「はるか、お前このごろ元気がないぞ…どうしたんぞ。」

あきのりは、ひと息入れて潤一さんとうまく行っているかと言うた。

「あれからどうなっているのだ?挙式披露宴の準備は進んでいるのか?」

あきのりの問いに対して、アタシはこう答えた。

「アタシね…困っているの。」
「困っている?」
「うん。」
「どしたんで(どうしたの)?…まさか、潤一さんに…」
「いなげな(変な)こと言わないでよ!!」

アタシは、思わずあきのりに声を荒げた。

「潤一さんのことなんかじゃないわよ!!」
「ほやったら(だったら)?問題と言うのはなんぞぉ~?」
「アタシのおじのことよ!!」
「おじって、ビーマック(冷熱会社)の専務さんのこと?」
「そうよ!!」
「何でまた?」

アタシは、コーヒーをひとのみしてからあきのりに言うた。

「アタシのおじさんが、…潤一さんと婚約をしていることを知らずに、お見合い話を入れたのよ!!」
「お見合い話を入れた?」
「うん。」
「相手は?」
「営業一課の課長さん…41歳で、今も独身よ。」
「お前のおじさんとのつながりは?」
「お見合い相手の人が入社した時のおじさんの部下の人よ!!」

あきのりは、のみかけのコーヒーをひとのみしてからアタシに言うた。

「そうか…それで、はるかはどうしたいのだ?」
「断ったわよ!!」
「断った。」
「当たり前でしょ!!だけどおじさんはこう言うわよ!!『結婚は恋愛と違う!!』と…おじさんはアタシと潤一さんが結婚することが気に入らないのよ!!」

あきのりにこう言ったアタシは、タンブラーに入っているミネラルウォーターを一気にのみほした。

ところ変わって、乃万(のま)の冷熱会社にて…

達郎さんは、コンビニで買った幕の内弁当でランチをとろうとしていた。

その時、アタシのおじが達郎さんに声をかけた。

「熊代くん。」
「専務。」

アタシのおじは、注文した仕出し弁当を差し出した。

「こっちの弁当にしなさい。」
「こっちにしなさいって…」
「こっちのお弁当の方が栄養バランスが整っているんだよ…残さずに食べなさい。」

アタシのおじは、仕出し弁当のケースを置いたあと『お弁当は、1食ごとに毎月のお給料から天引きするから…』と達郎さんに伝えた。

アタシのおじは、達郎さんが幸せな結婚ができるようにと思って、あれこれ口やかましく言うようになった。

夕方5時頃のことであった。

仕事が終わったアタシは、タイムカードを押して会社を出ようとした。

その時、アタシは会社の人から『今日はまっすぐ家に帰りなさい。』と言われた。

アタシは、会社の人の言うとおりにまっすぐ家に帰ることにした。

ところ変わって、アタシが暮らしている家にて…

「ただいま。」
「お帰りなさい。」

帰宅したアタシに、母は『ちょうどよかったわ…ごはんできているわよ。』とやさしい声で言うた。

アタシがダイニングへ入った時であった。

うちの食卓に、達郎さんがいた。

どうして…

何でまた、達郎さんがうちにいるのよ…

アタシはお見合いは断ったのに…

アタシは、生ぬるい声で母に言うた。

「お母さん。」
「なあに?」
「なんでうちの食卓に達郎さんがいるのよぉ~」
「ああ、達郎さんのことね…おじさんから達郎さんのごはんの世話を頼まれたのよ。」

達郎さんのごはんの世話を頼まれたってぇ~…

そんなん、聞いていないわよ…

食卓に座っていたアタシの父は、やさしい声で言うた。

「ああ、義兄(にい)さんは達郎さんのからだを心配して、ごはんの世話してくれと言うたのだよ。」
「そうよ…これから達郎さんはうちでごはんを食べることにしたから…はるかも一緒に食べましょう…」

母は、カドにやさしい声で達郎さんに言うた。

「達郎さん、お腹がすいたでしょ…今日はイモのにっ転がしよ。」
「そうしようか…ああ、達郎さん、ビールついであげようか。」

アタシの父は、達郎さんに冷えたビールをついだ。

「かあさん、達郎さんにごはんと味噌汁をついであげて。」
「あっ、はい。」

アタシの母は、達郎さんにごはんと味噌汁をついだ。

達郎さんは、アタシたち家族の前ではニコニコしているけど、心の中では『めんどくさいんだよ!!』とぼやいている。
達郎さんは、最初にうちで夕食を摂った日にうちの近くのマンスリーアパートに引っ越しをした。

達郎さんはうちで朝ごはんと晩ごはんを摂ることになった。

おふろも、うちで入る。

テレビも、うちで見る。

朝の出勤する時は、達郎さんと一緒に喜田村のバス停へ行くことになった。

アタシは、母から『バス停までは達郎さんと一緒に行って、達郎さんをバスに乗せてから会社へ行ってね…』と言われたので、いつもより一時間早く出勤することになった。

アタシと達郎さんは、自宅から歩いて喜田村のバス停まで行った。

けれど、心の中では達郎さんをウザいと思った。

ところ変わって、喜田村のバス停にて…(今治桟橋方面より・広瀬病院のすぐ近くにあるバス停)

アタシは、達郎さんにやや突き放す声で言うた。

「アタシ、達郎さんのお見送りが終わったら歩いて出勤するから…」

アタシがそのように言うと、達郎さんは『エーッ、どうして?』とつらそうな声で言い返した。

アタシは達郎さんに『女々しい男ね!!』と怒ったあと、そのまま立ち去った。

達郎さんは、つらそうな表情でアタシの背中をみつめた。

アタシに置き去りにされた達郎さんは、一人さみしく今治営業所行きのバスに乗り込んだ。

達郎さんは、喜田村のバス停から今治駅までバスに乗った。

今治駅で大西・菊間方面に行くバスに乗り換えて、延喜(えんぎ)のバス停まで向かった。

そんな中で、おじはアタシと達郎さんの挙式披露宴の段取りをトントン拍子で進めた。

アタシの両親も、6月の大安吉日の第2日曜日にいまこく(今治国際ホテル)で挙式披露宴の仮予約を入れた。

アタシと潤一さんの挙式披露宴の日にちと両親が設定した日にちが重複した。

両親に本当のことが言えないアタシは、ものすごく困り果てた。

そして夕方になった。

仕事を終えたアタシは、タイムカードを押して会社を出た。

その頃、達郎さんは会社を出たあと延喜のバス停へ向かった。

アタシは、母から電話で『喜田村のバス停で達郎さんを待ってあげて』と言われたので、仕方なく喜田村のバス停へ歩いて行った。

アタシが喜田村のバス停に到着してから数十分後に、達郎さんを乗せた西条・新居浜方面行きのバスが到着した。

「ただいま…一緒に帰ろうか。」

達郎さんは、ニコニコとした表情でアタシに言うた。

アタシは『悪いけれど、一人で帰ってよ。』と言うて、達郎さんを突き放した。

達郎さんを置き去りにしたアタシは、大型ショッピングセンターへ行った。

アタシに突き放された達郎さんは、ひとりぼっちでアタシの家にやって来た。

それをみた両親は、おどろいた。

「エーッ、ひとりで来たの!?」
「はい…」

達郎さんは、女々しい声で両親に言うた。

「はるかさんはぼくのことが嫌いなのですよ…ぼく以外に好きな男の人がいるんですよ…ぼくはいままでなにもかもガマンして生きてきたのに…チクショーチクショーチクショーチクショー…ううう…」

達郎さんは『チクショー…』とレンコしたあと、女々しい声で泣き出した。

アタシの両親は、過度にやさしい声で達郎さんに言うた。

「そんなことはないよ…はるかは気持ちの整理がまだついていないだけだよ。」
「そうよ…出会ってまだ日が浅いからなにもかもが分からないだけよ…日にちが経てば自然に打ち解けてくるから大丈夫よ。」

しかし、達郎さんはメソメソ泣きながら言うた。

「ぼくは今までなにもかもをガマンしてきたのですよ!!ガマンしてガマンしてガマンしてガマンして…いっぱいガマンしてきたのに…チクショーチクショーチクショー…こんなことになるのであれば、30代のうちに結婚するのだった…じっと待っていれば、神さまが選んでくれるなんて大ウソだ!!」

達郎さんは、このあと声をあげてワーワー泣き出した。

アタシの父は、カドにやさしい声で達郎さんに言うた。

「達郎さん、つらかったよね…今までずっとガマンしていてつらかったよね…」

アタシの母も、カドにやさしい声で達郎さんに言うた。

「達郎さんは、今までじっとガマンしていたことは、私たちはよく知ってるわよ…大丈夫よ。」

アタシの母は、達郎さんをなぐさめたあと『元気を出して…今日は達郎さんの大好きな麻婆豆腐(マーボーどうふ)を作ったわよ。』と言うた。

達郎さんは、家に上がったあと晩ごはんを食べた。

その頃、アタシは大型ショッピングセンターの近くのファミレスで、潤一さんと一緒にいた。

アタシは、予定通りに6月の大安吉日の第2日曜日に湯ノ浦のリゾートホテルで潤一さんと挙式披露宴を挙げるので、両親やおじには内緒で準備をトントンと進めた。

アタシが帰宅したのは、夜8時半頃であった。

「ただいま。」
「お帰りなさい…はるか、こんな時間までどこに行ってたのよ?」
「友達と会ってた…アタシ『きょうは友だちと会うヤクソクがある』と言うて電話したのよ。」
「それはいいけれど…あんた、どうして達郎さんに八つ当たりをしたのよ?達郎さんがビービービービー泣きよったよ。」
「泣きよった…女々しい男ねぇ。」
「はるか!!なんてこと言うのよ!!達郎さんはなにもかもをガマンして生きてきたので、結婚相手に出会う機会を逃したのよ!!これから幸せになろうと思っている人になんてことを言うのよ!!」
「バカみたいだわ…40過ぎの男は結婚の条件が悪くなることを達郎さんは分かっていないのよ…だからアタシにふられたのよ…」
「はるか!!」
「はぐいたらしい(むかつく)わよ!!もういいわよ!!アタシ、おふろに入る!!」

ふてくされたアタシは、お風呂場へ逃げ込んだ。

アタシの母は、ものすごく困った顔でアタシの後ろ姿をみつめた。

また次の日の夕方のことであった。

アタシは、シブシブとした表情で喜田村のバス停で達郎さんの帰りを待っていた。

それからしばらくして、達郎さんが乗っている西条・新居浜方面行きのバスが到着した。

「ただいま。」

達郎さんは、ニコニコ顔でバスを降りた。

「お帰り。」

アタシは、無愛想な声で達郎さんに言うた。

達郎さんは、アタシに『一緒に帰ろうか…』と言うた。

アタシは、女々しい達郎さんがキライなので80センチ前後離れて歩いた。

「一緒に歩きませんか?」

達郎さんの呼び掛けに対して、アタシは『イヤ!!』と言うて拒否した。

「どうしてですか?ぼくは、はるかさんのおじさんから言われて…」

立ち止まったアタシは、達郎さんを怒鳴りつけた。

「何なのよあんたは一体!!アタシにいいがかりをつける気!?」

アタシの言葉を聞いた達郎さんは、どうして自分のことをきらうのかと問いかけた。

「どうしたのですか?」
「あんたは『アタシと結婚したい。』と言うたわねぇ…どういう目的で結婚したいのよ!?」
「どういう目的って?」
「おじさんの顔色をうかがうため!?」
「違います。」

アタシの問いに対して、達郎さんは女々しい声で否定した。

アタシは、達郎さんにぶっちゃけた質問をぶつけた。

「ねえあんた。」
「はい。」
「あんたの実家は、何人家族なの?」
「実家の家族?ぼくの実家の家族は、両親と兄夫婦と兄の長男とぼくを合わせて6人ですが…」
「あんた、末っ子よね。」
「えっ?」
「えっじゃないわよ…そんなことはどうでもいいけど、アタシはあんたみたいな女々しい男とは結婚したくないから…」
「そんな…ぼくはどうしたらいいのですか?」
「おじさんに頼みなさいよ!!」
「ですから、専務になんて言えばいいのですか!?」
「おじさんに土下座してひたすら頼みなさいよ!!…『違う女性にかえてください…』とひたすら言うて頼むのよ!!それもできんのかしらねぇ…マザコン野郎!!」

アタシは、達郎さんに突き放す声で言うたあと、背中を向けて再び歩き出そうとした。

達郎さんは、アタシに対して『他の女性を探せって…ぼくはどうすればいいのでしょうか?』と訪ねた。

アタシは、また立ち止まってふりかえったあと、達郎さんに言うた。

「知らないわよ!!オカマ野郎!!」

アタシは、達郎さんにどぎつい言葉をぶつけてあかんべーしたあと、達郎さんからうんと離れて歩いた。
結局アタシは、なあなあな気持ちを抱えたまま、潤一さんとの挙式披露宴の準備を進めた。

その間に、アタシのおじと両親はアタシと達郎さんの挙式披露宴の準備を勝手に進めた。

達郎さんの実家の家族たちと連絡がつかないので、おじはものすごく弱った。

6月の第2土曜日の夜、アタシは湯ノ浦のリゾートホテルに泊まることにした。

アタシは、両親に『明日の朝早くに帰ってくる…友達の家に泊まる…』とウソをついて湯ノ浦へ行った。

そして、6月の大安吉日の第2日曜日がやって来た。

湯ノ浦のリゾートホテルでは、潤一さんとアタシの挙式披露宴が行われた。

ガーデニングウェディングは、無事に終わった。

その後、披露宴が始まるまでの間のひとときをホテル内にあるカフェテリアで過ごす。

この時、アタシはあきのりと会った。

「あきのり。」
「はるか。」
「来てくれてありがとう…今日の披露宴の司会よろしくね。」
「わかったよ。」

あきのりは、つらそうな声でアタシに返事をした。

そんな中であった。

アタシのギャラクシー(スマホ)に電話の着信音が鳴った。

アタシは、おそるおそる電話に出た。

「もしもし…おじさん…なんなのよ一体もう!!どうして勝手に準備を進めたのよ!!」

アタシは、おじから『いまこく(今治国際ホテル)で、アタシと達郎さんの挙式披露宴の準備ができているからおいで。』と言われたので、思い切りブチ切れた。

アタシは、湯ノ浦のリゾートホテルにいることをおじに伝えた。

それを聞いたおじは、ものすごい血相でおんまく(思い切り)怒った。

「湯ノ浦のリゾートホテル!!なんで湯ノ浦のリゾートホテルにいるのだ!?」

激怒したおじは、タクシー乗り場へかけて行った。

おじは、タクシーに乗ってアタシがいる湯ノ浦のリゾートホテルへ向かった。

おじが到着した時、結婚披露宴が始まる前であった。

この時、館内は険悪なムードに包まれた。

「はるかちゃん!!」

白いウェディングドレス姿のアタシは、おじが土足で新婦の控え室に入ってきたので怒鳴りつけた。

「おじさん!!新婦の控え室に土足で上がらないでよ!!」

おじは、ものすごい血相でアタシを怒鳴りつけた。

「はるか!!今すぐいまこくへ行こう!!」
「イヤ!!拒否するわ!!」

アタシとおじがもめていたのを聞いたあきのりが、アタシのいる控え室に駆けつけた。

アタシは、あきのりに事情を説明した。

「あきのり!!おじさんが勝手に挙式披露宴の予定を入れた上に妨害したのよ!!」

ことの次第を聞いたあきのりは、すっとんきょうな声をあげた。

「エーッ!!」
「お願い!!追いだしてよ!!」
「しょうがないなぁ~…オイコラ!!クソジジイ!!帰れや!!」

あきのりは、力づくでおじを追いだした。

「なにするんだ!!」
「帰れいよんのが聞こえんのか!?」
「やめてくれぇ~」

このあと、おじはあきのりと潤一さんの友人たちからボコボコにどつき回された。

アタシと潤一さんの披露宴は、ダブルブッキングが原因によるトラブルでお流れとなった。

潤一さんは『約束が違う!!』と言うてアタシを怒鳴りつけたあと、ホテルから出て行った。

このあと、アタシはおじから『達郎さんに謝りなさい!!』と言われたので、いまこく(今治国際ホテル)に行くことになった。

いまこくに到着した時のことであった。

この時、達郎さんの両親と兄夫婦がやって来て、達郎さんを怒鳴りつけていた。

「わしらは勝手なことをするなと言うたのに、なんで自分勝手したのだ!?」

達郎さんのお父さまが、部屋中に響く声でおらんだ(さけんだ)。

「達郎!!おとーさんとおかーさんは、じっと待っていなさいと言うたのよ!!」

達郎さんのお母さまも、大声でおらんだ(さけんだ)。

アタシのおじは、達郎さんの実家のご家族におわびしようと思ったが、達郎さんのご両親が達郎さんにお説教していたのであやまることができなかった。

サイテーね…

こんなことになるのであれば、結婚なんかするんじゃなかったわ…

アタシは、冷めた目つきで達郎さんの家の親族たちをにらみつけた。

達郎さんは、挙式披露宴がお流れとなったあと、強制的に実家へ戻された。

その日の夜、アタシも両親からこっぴどく叱られた。

「好きな人がいるならいると、なんで言わなかった!?」
「そうよ!!あんたが大事なことを言わないのでお母さんもお父さんも困っていたのよ!!」

アタシは、両親にハンロンしたあとはぶてた(すねる)。

「なんなのかしら一体…おかーさんとおとーさんは、アタシと潤一さんの結婚を反対していたのね!!」
「反対していないわよ!!」
「したわよ!!」

アタシと両親がひどい言い合いをしたので、話し合いがこじれた。

一方、達郎さんの両親もひどく怒っていた。

達郎さんの両親と兄夫婦は、達郎さんの今後のことについて話し合いをしたが、話し合いがこじれた。

「本当に、どう言ういうことかしら!!」
「全く!!羽島さんは、はるかさんに好きな人がいるのを分かっていて、達郎との結婚を進めた!!全くけしからん!!」
「達郎は、結婚相手が近くにいないから、アタシが面倒見るわ。」
「かあさんはそう言うけど、それでいいのかよ!?」
「そうよ!!万が一、義母(おかあ)さまと義父(おとう)さまがいなくなったら、誰が達郎さんの面倒を見るのですか!?」
「あんたたちが達郎の面倒を見るのでしょ!!」
「なんだよ急に!!」

達郎さんの両親と兄夫婦は、ヨレヨレになるまで怒鳴り合いの大ゲンカを繰り広げた。

それから3日後…

潤一さんは、アタシと別れたいと言うメールをアタシのスマホに送って来た。

アタシは、夕方頃に潤一さんに会いに行くことにした。

夕方5時過ぎに仕事を終えたアタシは、タイムカードを押して会社を出た。

アタシは、バスに乗っていまこく(今治国際ホテル)へ行った。

潤一さんは、そこから夜行バスに乗って東京に行くので、見送りをすることにした。

夕方6時頃のことであった。

バスを降りたアタシは、夜行バスの乗り場で潤一さんと会った。

「潤一さん。」
「はるか。」

潤一さんは、大きなスーツケースを持っている。

アタシと潤一さんは、別れる前にこんな話をした。

「はるか…ぼくは、会社をやめて外国へ行くことにした…」
「ええ?会社をやめたの?」
「ああ…やめた。」
「それで、どこへ行くの?」
「そうだな…誰も知らない誰も行ったことがない国に行こうと思ってる。」
「誰も知らない国?」
「どこだっていいだろ…はるか…楽しかったよ…君と過ごした日々と時間を…ぼくは忘れない。」
「潤一さん…」
「サヨナラはるか…オレのことはきれいに忘れて、ちがう男と幸せになれよ…」

潤一さんは、アタシに別れの言葉を言った後、東京品川バスターミナル行きの夜行バスに乗り込んだ。

潤一さんを乗せた夜行バスは、いまこくの敷地内を出発した。

アタシは、ぼうぜんとした表情で潤一さんを見送った。

次の日の昼休みのことであった。

ところ変わって、東村の旧国道沿いにある大型ショッピングセンターにて…

ショッピングセンター内にあるオムライス屋さんで、アタシはあきのりと会った。

挙式披露宴がどちらもお流れになったので、あきのりにどうわびればいいのか分からずに困っていた。

アタシとあきのりは、ランチを摂ったあと食後のコーヒーをのんでいた。

その時、あきのりが強い怒りを込めながらアタシに言うた。

「お前さ。」
「何よ?」
「相手の気持ちを考えたことあるのか!?」
「相手の気持ち?」
「そうだよ!!」
「怒っているの?」
「当たり前だ!!」

あきのりは、アタシにこう言うた。

「お前は、オレの気持ちを考えたことがあるのか!?」
「あきのりの気持ち?」
「ふざけんなよ!!」

あきのりは、アタシに理由を言うた。

「高校最後の夏休みのことを忘れたのかよ!?あのとき、織田ヶ浜で花火をしながら『同じ大学へ行こうね…』と言うた…けれど…オレは受験に失敗して…お前だけは大学へ行った。」

あきのりは、コーヒーをひとのみしてからアタシに言うた。

「オレは、一年浪人した…合格したあと、お前を追いかけて今治を出た…久しぶりに会ったら…お前はオレに『好きな人ができた…』と言ったよな…お前が暮らしていたアパートの部屋で…シャワーの音がした…あれはどう言うことだ!?」
「あの時は…潤一さんが雨に濡れていてかわいそうだったから…」
「ふざけんなよボケ!!オレは、それで大学をやめた…その時に、オヤジが会社の金を使い込んで逃げた…オヤジの使い込みのせいで、オレの人生はわやになった!!」
「あきのり。」

あきのりは、アタシにより激しい怒りをぶつけた。

「お前は、そのまま大学を卒業して、こっちにもんて(かえって)来た…ほいて(それで)、お前と潤一さんと結婚することが決まった。その時に、潤一さんがオレの前で土下座して、どう言うたと思う?」

あきのりは、より激しい怒りを込めてアタシに言うた。

「潤一さん、泣きながらオレにこう言うた…『単身赴任の父親がJR(福知山線)の大事故で亡くなった…母親も、中学に上がる前に亡くなった…児童施設で暮らしていたいた…きついいじめに遭ったので、学校を休みがちになった…親しい友人知人はいなかった…女はみーんなオレに冷たい…はるかだけはオレにやさしく接した…だから…はるかがいないとオレは生きて行けない…』そう言うてメソメソメソメソ泣いた…メソメソメソメソメソメソ泣いて、あわれみを乞うだけ乞うた…オレは潤一のクソ野郎の言葉をしっかりと覚えている!!」
「あきのり。」
「ほやけん(だから)オレは、お前のために身を引いた!!ほいて(そして)オレは、違うカノジョと結婚した!!」
「そうだったの?」
「お前、今頃になって気がついたのかよ!!」
「知らなかったわ。」
「ふざけんなよ!!オレはお前のダブルブッキングのせいで、なにもかもがわやになった…オレ、近いうちに妻とリコンすることにした!!…それだけは言うておくから!!」

あきのりは、タンブラーに入っているミネラルウォーターをゴクゴクとのみほしてから、アタシに言うた。

「ここの代金!!お前が払え!!」

あきのりは、アタシに伝票をたたきつけたあと店から出て行った。

あきのりが言うた言葉には、すごく重みがあった。

だから、午後の仕事が思うようにはかどらなかった。

あきのりが、アタシのことを愛していたなんて…

知らなかった…

アタシが大学にいた時、帰り道に雨に濡れて震えている潤一さんを助けたことがきっかけで…

アタシと潤一さんの恋が始まった…

アタシが、潤一さんばかりを愛したために…

あきのりや達郎さんの気持ちを逆なでにした…

あーん、仕事に手がつかないじゃないよぉ…

アタシは、すっとんきょうな声をあげた。

「どしたんで(どうしたの)?」

課長がアタシに声をかけた。

アタシは『トイレ』と言うたあと、席を外してトイレへ行った。

その頃、乃万(のま)にある冷熱会社で働いている達郎さんはどうしていたのか?

達郎さんは、あの一件が原因で通町の賃貸マンションに戻った。

達郎さんは、再び今治バスセンターから延喜のバス停までバスに乗って、バス停から歩いて職場に向かう日々に戻った。

アタシのダブルブッキングが原因で、達郎さんは調子を崩した。

この時、達郎さんのいる職場では毎年8月の今治の夏祭り『おんまく』で踊りに参加する従業員さんたちが踊りの練習をしていた頃あった。

例年なら、達郎さんは積極的に踊りに参加をする予定であった。

しかし、あの一件が原因で『おんまくの踊りなんか拒否する!!』と言うて、踊りの連に参加することをやめた。

夕方5時過ぎのことであった。

達郎さんは、仕事が終わったあとタイムカードに退勤時刻を記録して、会社を出ようとした。

その時に、達郎さんはアタシのおじに呼びとめられた。

「熊代くん。」
「専務。」
「どうしたのだね一体…いつもなら、『おんまく』の踊りに参加していたのに…今年は参加をしないのかね?」
「今年…いいえ、今年から永久に参加しません…」
「わけを話してくれないかな?」
「あるわけないでしょ…帰ります…」

達郎さんは、フキゲンな表情で職場から出た。

達郎さんは、あの一件が原因でなにもかもが変わった。

アタシのおじが、達郎さんの健康のためにと思って注文したお弁当の注文をやめた。

その後、達郎さんはコンビニで買った激辛の食べ物でランチを摂るようになった。

それと同時に、仕事もうまく行かなくなった。

達郎さんは、この最近上の人から『この頃、売上げ成績が落ちているぞ!!』と言われたので、ひどく落ち込んでいた。

「熊代くん、どうしたのだね君は…この最近、営業一課の売上げ成績が目標の数値の過半数にも行っていないようだな…」
「すみませんでした。」
「もっとスタッフ一同がしっかりしないと困るのだよ…」
「ですから、営業一課全員の力を結集して…」
「君のいいわけは聞きあきた!!もういい!!」

部長さんは、命令と指示を繰り返す口調で達郎さんに言い続けた。

営業一課のオフィスにて…

「この報告書、間違い字だらけだぞ!!わからない字は、辞書を引くなりして調べろ!!もう一度始めから書き直せ!!」
「すみませんでした。」

達郎さんは、部下のミスをより激しい力を込めておらぶ(どなる)ようになった。

スタッフさんたちは、達郎さんを恐れた。

「ねえ、山脇さんどうしたの?」
「報告書を作り直せと言われたそうよ。」

OLさんたちは、ヒソヒソと話していた。

「コラ!!そこ!!仕事しろ仕事を!!」

スタッフさんたちは、達郎さんを白い目でにらみつけた。

職場の雰囲気がどす黒く淀んでいた。

お昼休みのことであった。

ところ変わって、社員食堂にて…

達郎さんは、かけそば一杯を注文してランチを摂っていた。

そんな時であった。

社内恋愛のカップルさん4組が達郎さんの座っている席の近くの席に座っていた。

カップルさんたちは、ランチに摂りながら挙式披露宴のことを話したり、週末に行くデートのお話などをしていた。

達郎さんは、ため息をついた。

この時、達郎さんは自分自身がなまけていたから結婚相手と出会う機会を逃したことに気がついた。

そう思った達郎さんは、自分の力でお嫁さんを探そうと決意した。

アタシも、あの一件が原因で仕事も私生活も、うまく行かない日々が続いた。

アタシは、例の一件から2ヶ月後に再びおじの勧めでお見合いを7~8回した。

けれど、お見合い相手の人の性格が極力悪いことを理由に全部けつった(けった)。

『優柔不断』『仕事の話ばかりする』『マザコン男』など…

『アタシは悪くない、お見合い相手が全部悪い…』と言うアタシにも悪い部分があった。

例えば、一緒にごはんを食べに行った時に、相手の人が食べたい物を決めることができずに困っているのに、アタシが『それだったら、日替わり定食にしましょうか?』と言うて先走る…

気に入らなければすぐにイラついて相手の人に暴言をはいてしまうなど…

アタシが意固地で頭がかたい性格だからいいお相手に出会えない…

100回近くに渡ってお見合いをしたけど、実際に相手に会ったのは7~8回だけ…

あとはぜーんぶ写真と釣り書を見ただけですぐけつる…

そんなことばかりを続けていたので、アタシはダメになった。

達郎さんも、松山市や県外の結婚相談の店に行くなどして結婚相手を探した。

達郎さんは、足が棒になるまで結婚相談の店を回ったのに、全くいい結果が出ない…

その他にも、深刻な問題があった。

その中で、達郎さんの実家の人間関係の問題が深刻になっていた。

実家の家族の協力が得られない中では、コンカツをして行くことは無理ではないか…

そう思った達郎さんは、リタイアする一歩手前に追い詰められた。

達郎さんは、最初のうちは『がんばって自分の嫁さんを探すのだ。』と意気込んでいた。

けれど、時の経過とともに自暴自棄におちいった。

それを聞いたアタシのおじは、達郎さんの実家に行って、実家の家族に対して『達郎さんの結婚問題から逃げないで欲しい。』と言うた。

そしたら、達郎さんの実家の家族が口をとがらせてアタシのおじに非難口調で言うた。

「よくもアタシたち家族にいいがかりをつけたわね!!」

アタシのおじは、達郎さんの家族たちに協力するように言うた。

しかし、達郎さんの実家の家族たちがおじにボロクソ言いまくったので、もうだめだと言うてさじを投げた。

これによって、達郎さんは『コンカツヤーメタ…』と言うてさじを投げた。