そういえば、彼の母から受け取ったものがあった。お葬式のときに。


机に近寄り、引き出しを開け、一番下にそれはあった。


白い封筒だ。
筆跡から分かるナツキの字。


ダイナミックな文字なのに筆圧が弱いんだよね、と字をなぞりながら思う。


なんて書いてあるのか気になるが、
読むのが怖い。


意思とは反して、手は封を開け便箋3枚を取り出している。この現象にすら恐怖を覚えた。

きっと、ナツキが読めと念じているんだろう。


そう思ったら不思議と笑みがこぼれた。




【ナツ へ】と書き出されているその文字から彼の声が聞こえてくる錯覚がした。


視界がぼやけて、大粒の雫が1つ2つとシミをつくる。


読んでいけばいくほど、伝わる私への想い。


やっぱり彼は意地悪でずるい人。


私に心配かけたくない、とか
泣いてほしくない、とか
変顔はそこそこにしとけ、とか
好きなやつできたら応援してやる、とか。


でも、俺のこと忘れないで、とか……。


ほんと。
私をなんだと思ってるの?
何年ずっと一緒にいたと思ってるの?



「ばっっっっかじゃないの!?
そんな、っ、かんたんに、忘れる、わけ――っ」



ナツキのばか!アホ!バカ!!勝手に行かないでよ!なんで私だけ知らせないのよ!なんで……っ。


悔しくて悲しくて寂しくて。

膝から崩れ落ちた。

嗚咽が続くばかりで同じことしか思考が回らない。



ナツキのいない人生は考えられないんだよ?
夏が一番の楽しみなんだよ?
次の夏は?


ナツキは私に笑っていてほしいのだろうけど
無理だよ。こんな。だって――。



『だって、は無し』



息を止めた。
ナツキの声がしたから。

辺りを見回すけど姿はない。そもそも居るわけない。でも、もしかしたら。そんな小さな望みが芽生える。



「ナツキ」



もう夏にあなたと会えないと思うと
私の夏はもう――。