いきなり

視界が

真っ白になった。

なんだろう。

頭の中かな?

絶妙な

位置に

立っています。

今いるのは

屋上の

柵の外。

両足の半分を

コンクリートから出している。

つま先だけが

涼しい。

冷たい。

寒い。

まぁ

あったかくはないね。

とりあえず

ここに来てみたけど。

............。

何も起こらない。

なんでだ?

あっ

そうか。

「なんとなく」で

来ただけだった。

これじゃあ

何も起こらないのは

当然か。

でも



目の前に

人影が

浮いている。

髪は長い。

服は

純白のワンピース。

女の人だ。


あの〜
そこ、危ないですよ?
落ちたら大変だ。


浮いているのに

言わなくてもいいのに

そんなことを言ってしまう。

すると

女の人は

下を見ると

こっちへ移動してきた。

僕の隣で

止まると

無言で座る。

僕は

つま先を

まだ出したまま

女の人を見ている。

透けている。

この人は

幽霊だ。

オバケ。

オバケと言ったら

悪いような

イメージしかないので

僕は幽霊と言うが

それも

失礼な気がする。

気がするだけだ。

怖いとかではない。

決して。

絶対に。

とりあえず

話しかけてみる。


えっと、
お名前は...?


すると女の人は

こっちを見て

言った。


突然人に
名前を聞くのは
失礼よ。


しまった。

急に名前を聞いても

失礼だったか。

ならば

質問を変えよう。


あ、
すんません。
じゃあ
ここで
何されてるんですか?


そう言うと

女の人は

顔を

俯かせ

答えた。


なにも。
「なんとなく」で
来てみただけ。


おぉ。

僕と

同じではないか。

「なんとなく」で

来てみただけ。

一緒だ。


えっ、
ぼ、僕も
「なんとなく」で
ここに来ただけなんです。
奇遇ですね。


すると

女の人は


そうなんだ。
奇遇ね。




笑った。

僕は

生まれて初めて

人の

笑った顔を

見た。

そもそも

人に

会った事が

ない。

と言うとでも思った?

残念ながら

人に会ったことは

やっぱりないんです。

なので

この女性が

僕が

一番最初に

出会った

人と

なるわけです。

まぁ

幽霊ですけど。

とりあえずだけど

僕は

嬉しかった。

この世界には

僕以外に

何か

存在した。

その事実が

僕を

喜ばせた。

今僕は

テンション高め。

だから

女の人に

また

前々回の

質問を

聞いてみた。


えーっと、
改めて聞きますけど
お名前は?


また

失礼だ。

と言われそうだが

どうでもいいことだ。


........。
名前ね。
....。
マヤ。


まや?

それが

この人の

名前か。


マヤさんか。
なんか珍しい名前だね。
なんか。


別に珍しくないよ。
どこにでもある名前。


と否定する。

なんか、

と付けたのは

本当に

なんか、

と思ったからだ。

....?

ちょっと

自分で何を言ってるのか

わからなくなってきた。

まぁいいや。

そんなことを

考えていると

マヤさんが

同じ質問を

僕にぶつけた。


あなたは
なんていう名前?


名前か。

そーだなぁ。

今作るのもアリだが

ここは

正直に

言っておこう。


あー、
名前ないんですよ、僕。


この世界には

僕しかいない。

だから

僕に

名前を

つけてくれる人など

いない。

じゃあ

何故

そして

どうやって

僕はここに

存在するんだ?

わからない。

わからないから

ここに来たんだ。

なんとなくもあるけど。

僕は今

死のうとしている。


僕は今
死のうとしてる。


そんな言葉が

無意識に口から出た。

それを聞くと

不意に

怖くなった。

怖い。

怖い怖い。

なんで

どうして

僕は

こんなことを...?

怖くなって

足を引いた。

柵まで

下がる。

マヤさんが

こちらを見ている。

驚いたように。


.....なんで
死のうとしてるの...?


そんなことを言われた。

答えれない。

と思った。


.........。
この世界に.....
誰も
いないから......?


半分は

マヤさんに。

もう半分は

自分に

言う。

あぁ

なるほど。

寂しいのか

つまらないのか

この世界が。

僕の思考を

読み取ったのか

マヤさんが

言った。


私の世界、
霊の世界は
寂しくないよ。
つまんなくないよ。
存在してるものは
たくさんあるから。
.....こっちに来たら?


ほう。

それは名案だ。

そうするか。

そのためには

死んで

霊になる必要がある。

結局死ぬのか。

それでいいのか?

それでいいんだ。

多分。

よし。

あれだけ怖かったのが

こんなにもあっさり無くなるとは。

自分の

考えは

正しかった。

死んだら

霊になれるのか

それは不明だが

終わればいい。

この世界が。

この人生が。

深呼吸して

はいて。

よし

心の準備はできた。


うん。
そうするよ。
なんか、
それしか方法が無さそうだから。


一歩

一歩と

足を動かす。

つま先を出すと

下から風がくる。

涼しい。

冷たい。

寒い。

目を閉じる。

暗くなる。


私、
先に行ってるね。
じゃあ
またあとで。


そんな声が

聞こえた。

体が傾き

落ちる。

暗闇の中。

風だけ。

ここって

どのくらい

高かったっけ...?

その意識を最期に

僕は

地面と

ぶつかった。

強い衝撃。