風が部屋の陰に隠れていた靄をあぶりだした。それに向かって放たれた矢は、光の線を引いて靄を切り裂く。黒い靄は弾けるように拡散し、光に包み込まれて消えていく。彼らは大きなそれを、次々と消し去っていった。
「詩子、詩子、顔をあげて」
蹲る詩子の肩をゆすった。詩子は怖々と顔をあげ、そしていっぱいに目を見開く。
「ひ、ひな人形が……」
「見えるの!? そうだよ、詩子を守ってくれていたひな人形が、戦ってるの」
信じられない、と呟いた詩子はふっと力が抜けたように私に寄りかかった。慌ててそれを支える。
「詩子どのに近付くなど、笑止千万!」
お内裏さまが綺麗につながった刀を振りかざし、靄を頭から切り裂いた。切り口から光があふれ出し、やがて靄を包み込む。光が弾け、飛び散った。
刀を収めたひな人形たちが私の傍へ来た。
「必ずや御礼に参ります」
細い目をさらに細めてにっこりと微笑んだ彼らは、詩子の頬にそっと触れる。瞬きした次の瞬間には、もうそこにはいなかった。