『麻ちゃん、今からうたちゃんのスマホに祝詞を送るから、それをお雛さまの前で唱えてほしいんだ。できる?』

 「祝詞って、三門さんがしている風にですか……!?」

 『そう。簡単な祝詞だよ、絶対に大丈夫だから』

 「で、できません! だって私……」


 私の言葉を遮るように、詩子が「きゃあっ」と悲鳴を上げ頭を抱え込みその場にしゃがみ込んだ。次の瞬間、詩子が立っていた場所へ本棚に入っていたはずの文庫本が勢いよく飛んでくる。本は派手な音をたててドアにぶつかって足元に落ちた。

 思わず自分も悲鳴を上げる。直ぐに詩子に寄り添った。


 『麻ちゃんっ、麻ちゃん! 何があったの!』


 床に落としてしまったスマートフォンから三門さんが声を張り上げているのが聞こえた。震える手を無理やり抑え込んだ。

 お母さんを怪我させてしまったこと、妖の子どもに怪我を負わせてしまったこと、その時の恐ろしさを忘れてしまったわけではない。今だって、言いたいことを思い浮かべてから話してはいるけれど、それでもまだ誰かを傷つけてしまうのではないかと不安なのだ。