「そうだね、遅くまで頑張っていたんだ、当然の結果だよ。……それにしても、麻が高校生か。時間が経つのは早いねえ。明日には結婚でもしているんじゃないのか。気になる男はいないのかい」
「え、ババッ……!」
突然の質問に目を丸くした。赤くなった頬を隠すように、顔の前で両手を振った。カラカラと笑うババに溜息を零す。
おばあちゃんのように面倒見のいいこのひともまた、山姥と呼ばれる妖だ。みな親しみを込めて“ババ”と呼んでいる。
「やめろやめろ、乳臭い小娘に男だと? 聞く方が哀れだぞ。なあ、ふくり?」
私の膝に頭を乗せてくつろいでいたほっそりした白狐が欠伸を零しながらそう言う。
「みくりの相変わらずの口の悪さは、どうにかならないもんかねえ」
反対の膝でくつろいでいた、もう一匹の白狐が呆れたように目を細める。この二匹は結守神社がまつる結眞津々実尊に使える“神使”と呼ばれる特別な狐だ。