「だから足を止めるなと言ったのにお前は!」
聞きなじみのある声に目を剥いた。
「も、もしかしてみくり……!?」
「黙れ小娘、舌を噛むぞ」
鋭い釣り目がじろりと私を睨みつけ、慌てて口を閉じる。赤みがかった瞳孔も、穢れひとつない白い毛も、みくりと全く同じだった。なぜ人の姿にと問う暇もなく、やがて入って来た時と同じ鬼門が見えた。こちらから見た門の向こうも、同じ景色の道が続いている。
「皆は!?」
「先に出した、後は私とお前だけだ。まったく、最後の最後に面倒をかけおって!」
躊躇なく門に飛び込んだみくり。入って来た時と同じように視界が暗転し、目の奥がぐるりと回る感覚を覚える。
次の瞬間には鼻いっぱいに草木の香りがして、虫の鳴き声が聞こえた。目を開けると夕陽に照らされた裏山が広がっていた。
乱雑に土の上に下ろされる。
「麻ちゃん、みくりっ」
その声に振り返ると、三門さんが必死の形相で駆け寄ってきた。先に戻っていた皆も一緒だった。
詩子がその勢いのまま私の首に抱きついた。「麻のばか! 死ぬほど心配したんだよ」と声を震わせる詩子の背中を優しく撫でる。